何度でも君と

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そうしてあっと言う間に敗者復活戦まで残り三日前となった。 あれからなんとなくギクシャクして二人で稽古してもあまり噛み合わなかった。 そして俺もあまりやる気が出なかった。 そんな中、今日もなんとかやる気を出して学校の稽古場に向かった。 古い建物で歴史と不満ばかりが募る稽古場前の廊下でたむろしている同期達がいた。 そこには前に俺が途中で抜けたライブに出たメンツも居た。 何となく顔を合わせるのが億劫で物陰から会話を聞くと。 「なぁ、聞いたか?」 「知ってる。もうやってらんねーな」 「なになに? 何かあったん?」 何か誰かの噂話しをしているようだった。 「何だお前、知らねーのかよ。『ベスト』だよ。ベスト。あいつら今度テレビ枠掛けての敗者復活戦やるじゃん? それな、で予め決められていたらしいぜ」 「え、どういう事?」 ──ベスト。 心臓がドキリとした。 話しの内容からして俺達の事で間違い無いと思った。それにしてもコネとは何の事だ。 俺はよりいっそう話に耳をそばだてる。 「ベストのデブの方いるだろ?」 マサの事だと思った。 「アイツの父親がさ。キー局のプロデューサーで、母親が元宝塚女優(ジェンヌ)だってよ」 ──! 俺はそんな事聞いてない。知らない。 もう少しで声が出そうだったが何とか驚きの声を飲み込んだ。 「なんや出来レースか」 「そうそう、コネ出来レース。じゃないとあんなヤスキヨの劣化コピーみたいな漫才。誰でも出来る漫才が敗者復活に残る訳ない」 ──劣化コピーみたいな漫才。 誰でも出来る漫才。 「しかも。カズは女プロデューサーにしてるらしい。顔ええ奴は違うな。漫才下手くその癖にアッチは上手いってか」 廊下に下卑た笑いが響いた。 『そんな訳あるか、ボケがっ!』 そんな大声を出して飛び出してしまいそうになった瞬間、ぐっと肩を誰かに掴まれた。 それはマサだった。 マサは俺が聞いた事もない声量で怒鳴った。   「黙れ! カズ君はそんな事をしない! カズ君の漫才をバカにするなっ! カズ君はだっ!」 それはあまりにも大きな声でキーンと耳に響く声だった。 そしてマサは行こうカズ君と、呆気に取られる俺の手を引いて稽古場を後にした。
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