何度でも君と

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「マサ。声の調子はどうや」 「カズ。行ける。ええ調子や」 俺達は舞台袖で最後の練習をしていた。 これから敗者復活戦をかけたライブが始まる。 コネで出演が決まったかどうかそんな事はもうどうでも良かった。 あの日マサと花月前にて言い合った日。 お互いに今まで思っていたわだかまりを出し切って、笑って、泣いて。語り合った。 マサは母親による舞台女優仕込の声量で喋ると俺の漫才の邪魔になると思って声がずっと出せなかったらしい。 親の事もあり自分は目立ってはいけないとずっと萎縮していたそうだ。 そして俺は見てくればかりを気にして肝心の中身を疎かにして、漫才の見た目だけを追究していた事に気づかされた事。 それに加えてマサに今までの自分の態度の悪さを謝った。 そうやって深夜まで語り合って初めて二人でネタ作りを行った。 そしてソレを敗者復活戦に出す事にした。 今までの「ベスト」の漫才ではない。 マサにはあのド派手なグッチのスーツを着て大声を出す、ツッコミ側を担当して貰った。 そして俺はイケメンを前面に出したキザな真っ白なスーツを着て、ボケ側に回った。 今までにない漫才に緊張する。 そう、俺は単純に漫才が好きなのだ。 ヤスキヨみたいに多くの人を笑わせたい。 そんな当たり前の事を忘れていた。 そしてまずは相方のマサを笑わせなくては行けないと思った。 今までの自分の身の振り方を反省して原点に戻ろうと思った。 それこそ昔みたいに。 高校時代マサに良く見せた漫才みたいに。 そう思うと程よく緊張が解けていった。 「マサ。これは敗者復活戦とはちゃう。ベストの復活戦や。頑張ろうな!」 「当たり前や! 行くで、カズ!」 例えここで勝てなくとも。 何回も。 何百回でも。 何千回負けてもマサとなら戦える。 何度でも復活してみせる。 俺はそう決意を新たにした。 そして祭囃しが聞こえて俺達は暗い舞台袖から明るい舞台に飛び出して行った。
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