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「おっさん、ポポさんを知ってるの?」
ウィアが不思議そうな顔をした。
「そうだね、私が知っている男に似ているかもしれない。よければ経緯を聞かせてもらえないかい?」
少しうつむき、面倒くさげにウィアは話し出した。
「おれは十歳ごろから街の魔剣士の道場に通ってたんだ。国には魔術師の学校はあったけど、魔剣士を育てる場はなかったから。最初は見てることは許されたけど、まともに取り合ってももらえなかった。魔剣士になるには人より優れた体力と体格が必要だって言われた。しばらく掃除や下働きやって、ようやく練習剣を持つことを許された。そこからは稽古に混ぜてもらえたけど、自分に合った魔剣を創ってくれる魔法鍛冶師への紹介はなかった……」
ウィアは悔しそうに唇をかんだ。
「辛い思いをしたようだね。立ち入ったことを聞いてすまなかったね」
「いや、話したら何だかすっきりした!」
ウィアの表情は明るさを取り戻していた。
「おれは十四歳になってた。その頃には道場では負けることはなくなってたよ。道場からの帰り道だったなあ。ちょっとした人だかりができてたんだよ。覗き込んだら、酔っ払いがチンピラに囲まれて殴られてた。おれはチンピラを蹴散らして酔っ払いを助けたんだ。酔っ払いは、余計なことをするなっておれを𠮟りつけて酒を買って来いって命令してきたんだ。それがポポさんだよ」
支離滅裂だ。
それにしても、あの男がチンピラなどに後れを取るとは考え難い。
「それで、君は素直に酒を買ってあげたのかい?」
「うん。あの頃は大戦の後で、あんな人たちが街中うろついてたから。顔も身体も傷だらけで手足の自由も利かないみたいだった。仕方がないかなあって……」
「ちょっと待て。大戦の後なら、もう六、七年も前か?」
「そうだよ。あ、おれは今年二十一歳ね。おっさん、おれを子どもだって思ってるだろう?これでもりっぱな大人だからね」
衝撃発言だったが、何とか驚きを顔に出さずにすんだ。
「それで一番小さい瓶を買って持って行ったんだ。どうか身体をいたわって。大事な人が悲しむからその一杯だけにしてって」
青くさい台詞だと思ったが、ウィアは真剣だった。
「おっさんの言いたいことわかってるよ。余計なお世話だし、そんなものじゃ癒せないくらい傷ついてる人に何を言っても心は動かせない。父も兄も、あの戦でひどく辛い思いをしたんだ。ポポさんもきっとそうだった」
ウィアは悲しげに目を伏せた。
長いまつげの上で涙の玉が震えている。
どうしようもなく辛かったのはウィアも同じなのだろう。
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