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「ポポさんはしばらく何かを考えてるみたいだった。おれの名前を聞いたけど、ふらふら立ち上がって、明日また酒持って来いって言い残してどっか行っちゃった。おれの渾身の話全然聞いてなかった」
そう、元々そういう男だった。
「それで、会いに行ったのかい?」
ウィアはくすっと笑って首を横に振った。
「ううん。次の日、うちにこの魔剣が届いてた。走り書きの付箋がついてて、魔銀製『風の湾刀』で銘はポポ。号は誰か偉いやつがいつかつけてくれるだろうって。ポポさんはおれが魔剣を欲しがってることなんか知らないはずなのに。これだけの長さがあるのに、おれが思いのままに振るえる軽さだった。あわてて会った場所に行ってみたけど、もういなかった。それっきりポポさんとは会っていないんだ。おれのこの旅の目的の一つはポポさんにお礼を言うことなんだけどさ。でかくて目立つ人なのにさっぱりつかまらないんだ」
「ウィア君。その魔剣、私に鑑定させてもらえるかい?完全解錠できれば魔剣の力を充分に引き出せるだろう」
作者が盗人よけに魔道具に罠を仕掛けたり、弱点を知られるのを防ぐ処置を施すことがある。
それらを鑑定で突き止めることで初めて、魔道具は本来の働きをする。
それが完全解錠だ。
私はそう持ちかけてみた。
「おっさんはさっき吟遊詩人だって言ったよね」
疑われても仕方がない。
世知辛い世の中だ。
大切な持ち物を人に預けるのは難しいものだ。
「そうだね。吟遊詩人だけど魔法鍛冶師で鑑定師だよ。剣を振り回すのは苦手だったけれど、魔剣についても一通りの知識はあるよ」
私はウィアに、懐から取り出したメダルを渡した。
「それを預けておくよ。すまない、まだ名乗ってなかったね。私は魔術師組合の聖金位の鑑定師でリームスと言う」
ウィアがぎょっとしたようにメダルを返そうとしたのを、私はさえぎった。
「ちょっと厄介な鑑定になるから時間がかかる。終わったら返してほしい」
売り買いできるメダルではないが、持っていれば一生困らないくらいの価値はある。
「あの……リームスって。えっと……あの『祭屋』リームス?」
ウィアが口にしたのは懐かしい、若い頃の二つ名だった。
流行りの騒がしい音楽を奏で、やんちゃだった頃の。
ちなみにこの二つ名をつけたのはアートルムで、アートルムに『英雄』と名づけたのは私だった。
お互い嫌がりながらも、何と楽しかったことだろう。
まさか今こんなことになるとは思いもしなかった。
「どんな噂があるかは知らないけれど、そうだね、昔はそう呼ばれてたよ」
「父に聞いたことがある……街一つ吹っ飛ばしたって……」
「大げさだよ、ちょっと土人形の制御を間違って山が一つ無くなっただけだ」
私の言葉に、ウィアが黙り込んだ。
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