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「いや、そんなことじゃなくて。おっさ……リームス……さん、おれは今ちょっと持ち合わせがないから、鑑定料はティルエのウィンクルムに請求してくれる?兄のソムニウムでもいいけど、あの人ケチだから値切られるかもな。そうだな、婚約者のオルビスに請求するって手もあるか」
「鑑定料は要らない、こちらから言い出したことだし、助けてもらった礼だからね。……ちょっと待て。オルビス?」
「ああ、おれは一応女の子なんだよ。それも王家に近い血筋なんだ、ここだけの話だけど。おれは政略結婚の駒だけど、無理強いしたら真っ二つにしちゃうぞって可愛くねだってみたんだよ。そしたら旅の間は結婚は待ってやるってしぶしぶ許してくれたんだ。オルビスも何かと大変だね」
何を言うつもりだったのか、私は忘れてしまった。
「オルビスは私たちと同じ年だ。年の差がありはしないか?」
聞きたいことはそんなことではない気がした。
あの堅物に若い婚約者とは。
「構やしないよ。政略結婚だって言ってるだろ?それでも選択肢の中じゃ一番マシなんだよ。他はおじいちゃんだったり赤ちゃんだったりさ。腹黒いのもうじうじしてるのも嫌だもん。オルビスは理屈っぽくて高慢で面倒くさいけど、まっすぐでいい男だよ」
ざっくりとまとめられてしまったが、オルビスはそういう男だ。
能力が高く非の打ちどころはないのに、いつも誰かに振り回されどこか不憫な役回りだった。
「さてと。アートルムさんにはいつか会えそうな気がするし、魔剣にすっごい号がついたことだし。旅の目的はおおかた達成したかな。細かいことは言ってられないな。これ以上わがままを言うと父上の毛が無くなっちゃうだろうし、そろそろ帰らなきゃ。世話になったね、リームスさん!」
今度ばかりは引き止める暇もなかった。
ウィアは恐ろしいほどの勢いで走り出し、あっという間に去ってしまった。
思えば、風のような女魔剣士ウィアと出会って別れるまで、ほんの数刻しか経っていなかったが、数年を過ごしたような鮮やかな記憶ばかりが残った。
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