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私がまだ幼く小さな子供だった頃、心の中には美しい羽をもった一羽の小鳥が住んでいた。
この宇宙にたった一羽しかいない、それはそれはきれいな姿の小鳥。
その鳥は私の心に広がる森の中で、これまで耳にしたことのない不思議な声でさえずり、青く澄んだ空を元気に飛び回っていた。
ある日、その小鳥の絵を私が夢中になって描いていると、一人の大人がやってきて、私の絵をのぞき見ると、笑って言った。
「なんだ、そりゃ? そのへんてこな落書きは?」
「……鳥だよ」
「鳥だって? そんなおかしな格好の鳥がいるわけないだろ! それにしても、おまえは絵が下手くそだね」
さもおかしそうに、その大人は私の絵を指さして笑った。
それまで楽しくウキウキして描いていた絵が、なんだかとてつもなく恥ずかしく、なさけないできそこないのように思われて、私はその絵をぱっと後ろに隠した。
「そんなくだらないことに費やす時間があるなら、立派な大人になるためにちゃんと勉強をすることだ」
その大人は冷たい目で私を見て、いかにもえらそうにうなづきながら去っていった。
気がつくと、さっきまで私の心の中で元気いっぱいに羽ばたいていた小鳥はもうどこにも見当たらなかった。
その日から、鳥はどこかにいってしまった。
夜、眠りについた後、夢の中に広がる森を駆け回って探してみても、さえずりをまねて空へ呼びかけてみても、その小鳥が私の目の前に現れることは二度となかった。
はるか遠い空へ飛び去ってしまったのか、それとも光のあたらない暗い森のどこかで冷たく凍って死んでしまったのかもしれない。
それ以来、私は絵を描くことそのものをぱったりとやめてしまった。
そうして私は年をとり、大人になった。
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