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ある日、私は街の広場で開かれていたバザーの前を通りかかった。
広場には様々な露店が軒を連ね、雑貨や生活用品、食べ物などありとあらゆる物が並べられ、売られていた。
私は一軒の店の前で足をとめた。
それは絵を並べて売っている露店だった。
その店先に飾られていた一枚の絵を目にした瞬間、息が止まった。
それは、あの鳥の絵だった。
私が子供の頃に描き、ある大人に下手だとばかにされ、恥ずかしくなって描くのをやめてしまった、あの小鳥の絵だった。
そばに寄ってよく眺めてみると、絵の端にクレヨンでたしかに自分の名前が記されていた。まちがいなく私の絵だ。
「でも、どうして、ここに……?」
私は不思議に思って、あの絵をあれから結局どうしたのだっけと思いをめぐらせた。
でも、どうしても思い出せなかった。
家のどこかにしまいこんでしまったのか、捨ててしまったのか、どう頭をひねってみてもまったく何ひとつ記憶になかった。ばかにされてよほどショックだったのか、その絵についての記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
私は絵を手に取ると、店の主人に訊ねた。
「この絵はどこでどうやって手に入れたのですか?」
店の主人はサンタクロースのような白く長いあごヒゲをたくわえた老人だった。座っていた椅子から「よっこらせ」と掛け声をかけて立ち上がると、老人はヒゲを手でなでつけながら静かな声で言った。
「その絵はこの近所のアトリエに住んでいるある画家から譲り受けたものだよ。あんた、その絵が気に入ったのかい?」
私は思わずうなづくと、重ねて訊ねた。
「この近くって、どこに住んでいるのです?」
老人は机の上に置いてあったメモ用紙に簡単な地図を描くと私に手渡した。そして、やさしく微笑んで言った。
「この絵はあなたにお譲りしよう。これもきっと何かの縁だ」
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