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「ん……分かったよ、約束。
大好きな君にそこまで言われたら、仕方がないね」
デレデレとだらしなく鼻の下を伸ばしてそう言うと、彼は僕の小指に小指を絡めて、あろうことかそのまま自身の口元へ引き寄せ、ちゅっと軽く口付けた。
「んっ……!」
予想外が過ぎる奇行に反応して、つい変な声が出てしまった。
触れたのはただの唇で、小指の先になんてそこまで神経は通っていないはずなのに。
は……恥ずかしい。なんだよ?今の。
慌てて指を引っ込めて、真っ赤であろう顔でまた西園寺さんの事を睨み付けた。
だけど西園寺さんはそんな僕を見て、満足げに笑った。
こんなのを自宅に招くのはやはり恐ろしい気もするが、約束は約束だ。
それに下手にこの変態ストーカーと二人っきりになる危険性を思えば、親や妹が一緒な方がきっと百万倍マシだと思うから。
しかしこの時の僕は、まだ気付いていなかったのだ。
……予定を空ける必要があったのは、西園寺さん本人ではなかったという事に。
***
その日から西園寺さんは、僕の言いつけを守り、昼以外姿を見せる事が無くなった。
それにホッとするのと同時に、自分から言い出した事だと言うのに少しだけ寂しさを感じてしまうなんていうのは、気のせいに違いない。
そして約束の日の、ちょうど一週間前の土曜日。
……思わぬ事が、起きた。
自宅に帰り、夕飯後風呂から上がると両親が正座をして神妙な面持ちで、一枚の封筒を僕に向かい差し出してきたのだ。
あまりにも真剣な顔を彼らがしていたものだから、まさか父親がまた借金を拵えて来たのかと思い、僕にも緊張が走った。
しかし中から出てきたのは、A4サイズのカラフルな印刷物だった。
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