511人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ僕、今日からあの人にめちゃくちゃ優しく接するよ」
にんまりと笑って告げると、ハラちゃんは心底ゲンナリしたような表情で言った。
「ホントお前、性格悪いよな。
‥‥‥西園寺さんが、ちょっとだけ気の毒になるわ」
***
何故西園寺さんみたいな完璧超人が、僕のような普通の男にストーカー紛いの行動を繰り返すようになったかというと。
‥‥‥話はおよそ、1ヶ月前に遡る。
新規オープンする事になった、『にこにこ弁当』の第54号店。
家から近かった上、時給も魅力的だったから、僕はアルバイト募集の告知を見てすぐに応募した。
すると運良く採用されたから、オープニング前から研修に入る事になった。
元々手先が器用だったし、愛想も悪くないため、厨房と接客その両方を臨機応変に任される事となった。
そして迎えた、オープン当日。
西園寺さんはパリッとしたスーツに身を包み、場違いなまでにキラキラまばゆいオーラを撒き散らしながら店舗に現れた。
だけどその日彼は体調があまり優れなかったらしく、終始笑顔ではあったけれど顔色が少しだけ悪く思えた。
他の人達はそれにまるで気付いていなかったけれど、僕は父親が病弱なためこういった事に慣れていたから、ペットボトル入りのミネラルウォーターをこっそり手渡した。
それからもし具合が悪ければどうぞと椅子を差し出すと、彼は驚いた様子で瞳を見開き、それから満面の笑みを浮かべてありがとうと答えた。
最初のコメントを投稿しよう!