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罪悪感
その後は特に何かされるでもなく、そのまま無事に家まで送り届けて貰った。
約束通り卵は2パックとも僕の物になったため、別れ際、自然と笑顔が溢れた。
「ありがとうございました、西園寺さん。
助かりました」
すると彼は嬉しそうに、笑って答えた。
「いいえ、どういたしまして。
俺の方こそ、楽しい時間をありがとう。
また明日も迎えに行くから、一緒に帰ろうね。
それから陸斗くんの手料理も、本当に楽しみにしているから」
‥‥‥やはり顔が、良い。
迂闊にも少しだけドキッとしてしまい、思わず西園寺さんから目をそらした。
だけど彼は特に気を悪くするでもなく、またクスリと楽しそうに笑った。
***
意外と悪い人では、無いのかもな。
たまに手とかを触られたりはするものの、それ以上何かされるワケでもないし、ああやって適度な距離を保ってくれるなら別段困る事もない。
夕飯後、風呂場でひとり体を洗いながら、そんな風に一瞬考えた。
でもそこで、ハッと気付いた。
正気に戻って貰うつもりが、なんで僕の方が絆されそうになってんだよ!
あの人は僕の、ストーカーだっていうのに。
慌ててシャワーで冷水を浴び、そんな甘い考えは泡と共にすべて綺麗サッパリ洗い流した。
「‥‥‥それもこれも、全部彼の顔が良過ぎるせいだ」
本当は西園寺さんにあんな風に想って貰えて、嬉しかった。
ほんの、少しだけ。
だけどかたや、貧乏暇なしのフリーター。
かたや、まるで漫画に出てくるような、美麗のセレブリティ。
僕と彼では、住む世界が違い過ぎる。
彼にはきっと僕じゃない、もっと相応しい女性がいる。
あんなのはきっと、一時の気の迷い。
物珍しさからの、脳の誤作動だ。
胸がほんの少し痛んだけれど、それには気付かないふりをした。
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