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5
司会の腕が小刻みに震えている。
神経の昂りが原因であることに疑いの余地はない。
死闘を繰り広げた二人は、試合中と打って変わって非常に清々しい顔をしていた。
重い汗がステージに滴っては、活き活きと煌めく。
「……ヤバい。熱すぎる。これぞ決勝です!」
会場もしばらくの間ざわついていた。
魂の衝突はそれほど絶大なる感動を生むのである。
「最高の試合だったからこそ、きっちり判定をつけましょう!」
勝負の行方は観客に委ねられている。
司会が対戦者の名前を順に呼び上げ、
より大きな歓声に包まれたラッパーが勝ち星を掴む。
「先攻 イルロック」
下馬評に違わず、凄まじい声量となった。
観客のおよそ半数が彼を熱烈に支持していた。
「後攻 MC英治」
イルロックに負けず劣らずの歓声が返ってくる。
判断する者によって勝敗があっさり覆るぐらい、明確な差は見られなかった。
紙一重の展開は予想していなかったのだろう、
困惑が半開きになった司会の口元によく表れていた。
「うわぁ、僅差だ。延長戦……いや、大変悩ましいですが、決まりました」
最後の審判を下す彼は、険しい顔つきで大きく息を吐く。
「全日本ラップ選手権 東京予選優勝は──」
判定後、英雄同士は武器を置き、すぐに固い握手を交わした。
あどけない手が頑強な手の中に納まる。続々と仲間たちも駆け寄る。
泰平を超越した結末に、賞賛の拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
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