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 さりとて、イルロックは失速も何のそのと言うように、真剣に対敵を見つめる。 「覚悟しな、英治」 英治は規格外の気迫を感じると共に、初めて名前で呼ばれたことが嬉しかった。 Hip-Hopを生業とする者と遂に認めてもらえたのだと息を弾ませる。 「ラッパーなんぞ、ステージ上で死ねれば本望だろうがぁ!」 勢い余ったイルロックは、闇が占有する天を仰いだ。 言い放たれた決め台詞(パンチライン)は自虐でも卑下でもない。 ラッパーがマイク一本で喜怒哀楽に形を与える職である以上、 ステージに立ったらいつ死んでもいいように、 常に悔いなき生を全うしろという教えだった。 この世の地獄を間近で目にしてきた彼が伝えるからこそ、 代えの利かない価値を有していた。
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