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 司会の腕が小刻みに震えている。 神経の昂りが原因であることに疑いの余地はない。 死闘を繰り広げた二人は、試合中と打って変わって非常に清々しい顔をしていた。 重い汗がステージに滴っては、活き活きと煌めく。 「……ヤバい。熱すぎる。これぞ決勝です!」 会場もしばらくの間ざわついていた。 魂の衝突はそれほど絶大なる感動を生むのである。 「最高の試合だったからこそ、きっちり判定をつけましょう!」 勝負の行方は観客に委ねられている。 司会が対戦者の名前を順に呼び上げ、 より大きな歓声に包まれたラッパーが勝ち星を掴む。 「先攻 イルロック」 下馬評に違わず、凄まじい声量となった。 観客のおよそ半数が彼を熱烈に支持していた。 「後攻 MC英治」 イルロックに負けず劣らずの歓声が返ってくる。 判断する者によって勝敗があっさり覆るぐらい、明確な差は見られなかった。 紙一重の展開は予想していなかったのだろう、 困惑が半開きになった司会の口元によく表れていた。 「うわぁ、僅差だ。延長戦……いや、大変悩ましいですが、決まりました」 最後の審判を下す彼は、険しい顔つきで大きく息を吐く。 「全日本ラップ選手権 東京予選優勝は──」 判定後、英雄同士は武器を置き、すぐに固い握手を交わした。 あどけない手が頑強な手の中に納まる。続々と仲間たちも駆け寄る。 泰平を超越した結末に、賞賛の拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
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