鏡面に宿る愛

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 自分と同じ顔、同じ身長。そんな存在がいつも隣にいた。僕たちは『双子』と呼ばれる関係だ。  昔からそっくりだと言われ、親ですら時たま僕たちを間違えた。僕たちだけが唯一お互いを識別できる存在だった。  しかしそんな僕たちにも少しずつ違いが生まれた。僕は『男』で、僕に似たもう1人は『女』だった。  小学生になる頃、ランドセルは2人おそろいにした。だが、今まで色違いだった服は全く別の物となり、今まで同じようにカットされていた髪にも変化が生まれた。僕はショートヘアで彼女は髪をのばすようになった。  高学年になるとその変化はより大きくなった。僕は背がのび始め声が低くなり、彼女の身体は丸みを帯びた。僕は、もう僕たちが唯一の存在ではないのだと悟った。僕も彼女も『個』であり『他人』なのだと。今まで鏡のように思っていた存在はもういないのだと。  そして気付いた。僕は彼女が好きだったのだと。唯一の存在として彼女を愛していた。それと同時にこれが失恋なのだと思った。  中学になると制服で僕たちは分けられた。僕の背はさらにのび、声は低くなった。どんどん彼女と遠ざかっていった。そんな僕をよそに彼女は、僕たちは双子だと周囲の人間に笑顔で言った。似てるでしょ、とも。  ああなんて残酷なのだろうかと思った。1人の母親の中に別々の個が宿った瞬間から僕たちは双子だ。その事実は一生変わらない。烙印のように僕たちについて回る。  しかし、僕が求めた双子は違う。鏡のような、幼い頃の瓜二つの状態のことなのだ。僕たちだけが僕たちを認識できたあの感覚のことなのだ。  そして僕は気付いた。僕は今なお彼女を愛していると。僕が求めたものと違う双子になっても、それでも僕には彼女が必要なのだと。  だが気付いたところで、益々女性らしくなっていく彼女を僕はただ見守ることしかできなかった。  彼女は美しかった。つややかな黒髪、透き通るように白い肌、二重のはっきりとした目に、すっと通る鼻筋、血色のいい薄い唇。全てが完璧だった。こんな美しくなってしまっては、やはり僕はもう彼女の鏡にはなれないと思った。  彼女は美しいだけでなく社交的だった。持ち前の明るさで、彼女の周りには人が増えていった。それに対比するように、僕は教室の隅で身を潜めるようになった。  そんな時、僕へのいじめが始まった。それに気付いた彼女が、いじめを止めてくれた。その時彼女は、僕が女の子っぽいからいじめられると言った。その言葉が僕を変えた。  僕は私服の高校に進学をした。髪を彼女と同じように胸元までのばし、彼女の好きなブランドの服を身にまとった。そんな僕に彼女は、可愛いと言ってくれた。あの美しい笑顔で。 「好きだよ。愛してる」  僕は彼女の目を見てそう告げた。彼女はおかしそうに笑った。僕はそれだけで十分だった。  僕は彼女を愛している。だから僕は彼女になりたい。これからもどんどん彼女から遠ざかっていくこの身体の中に彼女への想いを宿し、彼女になることを夢見て生きていくのだ。  鏡の前に立ち僕は 「好きだよ。愛してる」 と言った。そして彼女の笑顔を真似た。
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