当たっちゃう人

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当たっちゃう人

 母さんが還暦を迎えたころ、老眼鏡が必需品となった。  だが、普段はメガネをかけない。  本を読むときや新聞を読むときぐらいだ。  だから、よく眼鏡を忘れがちだ。  肝心なときに「あれどこやったかな?」と言っている。  あと酔っぱらって、何回か電車に忘れてきたこともある。  それを見ていた僕は、還暦の誕生日プレゼントはメガネの紐にしようと思った。  しかし、母さん曰くダサいから好きじゃないとのことで……。  僕はおしゃれな紐を探しに、博多まで足を運んだ。  いろんな眼鏡屋さんに行って「おしゃれな紐ないですか?」と聞く。  店の人はこぞって、難しい顔をしていた。  半日かけて博多を歩き回ると、やっとのことで、それらしき店を見つける。  若い女性店員で、眼鏡屋ということもあって、自身もピンクのめがねをかけていた。  背が小さくて細身の可愛らしいお姉さんだと思った。  僕が声をかける。 「すいません。おしゃれな紐ありませんか?」  お姉さんは優しく微笑む。 「何点かございますよ」  そう言うと、店の奥から何本か紐を出してきた。 「これがオススメですね♪」  お姉さんが出してくれたのは、ピンク色の細い可愛らしい紐。 「あ、いいっすね」 「プレゼント用ですか?」 「そうなんです。母の還暦に……」  言いかけて、あることに気がついた。  母さんは、けっこう太っている。  自ずと胸もでかい。  紐の長さが気になる。 「すいません。試しに眼鏡に紐をつけてくれませんか? 相手は女性ですので……」  僕がそう言うと、お姉さんは快く引き受けてくれた。 「いいですよ♪ 眼鏡を下ろすとこうなりますね」  お姉さんは胸元に自身の眼鏡をおろす。  自然と、眼鏡がお姉さんの胸へ、プニンプニンとバウンドする。  コンパクトサイズだが、綺麗な形の胸だ。 「ん~ 母だとどうかな~」  失礼だが、このお姉さんとサイズが違うからな。 「もう一回やってみましょうか?」  そう言うとお姉さんは何度か、眼鏡をかけたり、下ろしたりを繰り返す。  その度にプニン、プニン……と柔らかそうな胸が、眼鏡を弾き返す。 「ん~」  僕はその一連の行為をじーっと凝視する。 「どうでしょうか?」 「そうですねぇ。もうちょっとやってもらえますか?」 「いいですよ♪」  プニプニ……。 「どうでしょうか?」 「もう一回いいですか」  プニプニ……。  それが30分間ぐらい続いた。  悩んだ末、僕は「一度他の店を回って考えていいですか?」とたずねた。  お姉さんがニコッと笑う。 「全然構わないですよ~」  何度も僕の注文を聞いてくれて、いい人だなぁと思った。  その後、しばらく博多を歩いて考えを巡らせる。  やはり、あのプニプニお姉さんの店が一番良かったなぁ。 「よし! あそこに決めた!」  もう一度、お店に戻るとお姉さんが笑顔でお出迎え。 「あ、先ほどの……。おかえりなさい♪」 「さっきのやつ、ください」 「ありがとうございます~」  だが、僕は心配症だ。  もう一度だけ、お姉さんに言ってみよう。 「すいません、不安なので……。もう一度、紐の長さ見ていいっすか?」 「いいですよ~ ハイッ♪」  プニン。    ふむ……。 「あの、すいません。もう一度いいですか?」 「構いませんよ♪」  プニプニ……。  ハッ!?  なんてことだ!  このお姉さん、嫌な顔一つもせずに、接客とはいえ、僕にパイパイをプニプニさせている!?  それを何度も何度も……。  まさか! この人、僕に惚れているのかもしれない!?  
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