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2000年 小学4年生
わたしは一人で帰っていた。
にぎりしめた手の中には、折れた細いえん筆。
かわいいキャラクターがかいてあり、引っこしてしまった大好きな友達がくれたものだ。
たから物だった。
小さくなるのがもったいなくて使わず、ティッシュにくるんで筆箱に入れ、大事に毎日学校へ持っていった。
なのに、折られてしまった。
あの子が折った。
そのえん筆が欲しいと言われてことわったら、あの子はわたしの手からえん筆をうばって、足を使ってふたつに折って、教室のごみ箱に捨てた。
めずらしくわたしが言うことをきかなかったから、はらが立ったのだろう。
急いでごみ箱から取り返したけれど、折れたえん筆は元にもどらない。
いままでと同じように、先生には言えなかった。
あの子はプライドが高くて、わたしのできない所をめざとく見つけてはよく悪口をいった。みんながいない所で、ぶたれたこともある。
どれも悲しくてつらかった。
それでも、今回はこれまでで一番悲しい思いをした。
気がつけば、わたしは神社の前に来ていた。
少しなやんだけれど、結局、神社に入ることにした。
神社の中は、だれもいなかった。
初もうで以外でここに来るのも、ひとりだけで来るのも初めてだ。
悪いことをしている気持ちになりながら、ぶら下がったスズの前に行く。
折れたえん筆を足元にそっと置いて、ほんの少しだけスズをゆらした。そして、そっと手を合わせて、心の中で語りかけた。
神様、今日わたしはたから物をこわされました。
どうかあの子も、自分のたから物をうしないますように。
あの子の一番だいじなものは、ピアノだ。
だから。
ピアノができなくなりますように。
いつか、あの子の指が折れますように。
願った直後、風にゆられて、スズが少し音をたてた。
神様が願いをきいてくれたのかもしれないと、わたしは思った。
【終】
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