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2018年 会社員
小学校の頃の同級生が、事故に遭ったらしい。
彼女はピアニストだったが、この事故で引退を余儀なくされるだろう、とのことだ。
大晦日、寝る直前に回ってきた報せで知った。
今の彼女の気持ちが、私には容易に想像できた。
次の日は夫と初詣に行く予定があったので、突然のことに驚きながらも眠りについた。
翌、早朝。慌ただしく支度をして、遠方の神社へ向かった。といっても、実家の近くにある神社なので、私にとっては馴染み深い。大学卒業後すぐに結婚してから、夫婦で毎年欠かさず行っている。
私たちが到着したとき、境内にはまだ人が少なかった。
今年も勝ち組だと冗談めかして言い合い、お清めをしてから、社殿の前で手を合わせた。
夫はいつもの通り数秒で済ませたが、私はしばらく手を合わせ続けた。いつもより、長めに。
社殿の前を辞した後、夫が言った。
「今日はスッキリした顔だね。毎年、初詣は眠そうなのに」
「うん。今年は目覚めが良かった」
「いい夢でも見た?」
「いや、全く。夢を見てたかどうかも覚えてない」
「変わらないなあ」
あなたもねと返して、二人で笑い合う。
閑散とした神社の境内は、とても空気が良かった。
毎年来ているが、身も心もここまで清々しくなったのは久しぶりだ。
その理由を話せば、夫は理解を示しながらも呆れるだろう。
先程手を合わせている時に思っていたことを話せば、もっと呆れられることだろう。
新年の清らかな空気を台無しにしたくなかったので、そのどちらも口にはしなかった。
鳥居をくぐって神社を出る間際、私は社殿を振り返った。祈っている時よりも、さらに深く、感謝の意をこめて。
いつになく晴れ晴れとした気分で、私は夫と帰路についた。
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