走り出す

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私は北海道の小さな牧場で生まれた。 真っ白で綺麗な優しいお母さんが大好き。 私達にご飯をくれたり、ブラッシングしてくれる牧場のみんなが大好き。 ある日。 いつもみたいに牧場を走り回っていると、私を見てお母さんが少し悲しそうな顔で言った。 《お母さんはみんなの笑顔が大好きなのに、昔とても悲しませてしまったの。 みんなの夢を叶えてあげられなかったの》 またある日。 いつもみたいに牧場を走り回っていると、私を見て牧場のおじさんが懐かしそうに言った。 「お前は本当に、シラヒメ(お母さん)にそっくりだな」 またまたある日。 いつもみたいに牧場を走り回っていると、私を見に来た馬主(うまぬし)さんって人が微笑っているのに涙を流しながら言った。 「この子をぜひ買わせて下さい!」 その日は牧場のみんなも、微笑っているのに泣いていた。 幼い私には、お母さんの言葉の意味も、牧場のみんなや馬主(うまぬし)さんが泣きながら微笑っている意味も分からなかった。 自分の人生が、すでに走り出している事にも、気付かなかった。 …… …………。
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