デコレーションにピストル 10

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デコレーションにピストル 10

10 帰るに帰れない。 俺の家は、青葉の家の向かいだ。 揶揄われただけなんだろうけど、あんなに情緒不安定な青葉は見た事がないし、キスされた事に変わりはないわけで…。 まだ動揺する心臓がバクバクと、さっきの光景を思い出させて仕方なかった。 体調が悪かっただけ 体調が悪かっただけ そうだよ…唇が触れたくらいがなんだって言うんだ! クソッ!なんか色々考えてたら腹が立ってきた。 アイツそういや、立ち去り際にバカとか言ってなかったか?!どう考えても青葉が馬鹿じゃんかっ! 俺はローファーのつま先を睨みつけた。 陽が沈んでいく。 辺りの街灯が順番に灯り始め、何だか物悲しくなってくる。 「はぁ…何なんだよ」 髪をグシャっとかき上げ、呟いた独り言はより今の状況の困惑具合を知らしめた。 トボトボ歩く足取りはどうしても真っ直ぐ家に向かわない。 結局、家から少し離れた24時間営業のカフェに入った。 夜になると照明にキャンドルが使われたりして、オシャレで人気のある店だ。 制服のままなのは気が引けたけど、まだ時間にすれば19時になったばかりだし、ノートや教科書を広げていれば問題なく暫くは滞在出来るはずだ。 店員が「空いてるお席にどうぞ」と声をかけて過ぎ去って行く。 オレンジ色に染まる店内を見渡し、一点に目が止まった。 「ぁ…」 まるでその声がとどいたかのように、背中を向けていた彼が、タイミングよくこちらを振り返った。 「あれ?…秋空…秋空じゃんっ!!」 立ち上がったのは金髪で灰色の目の男。 彼の動き一つ一つに囁き声が聞こえて来る。 「素敵っ!」 「ヤバぃ…超カッコイイ」 「モデルかしらぁ」 「白川先生っ」 「こんなとこで会うなんてなっ!」 「ぁ…はぁ…まぁ」 「何だよ…浮かない顔だな。」 白川先生は二人テーブルの椅子を俺に引いてくれる。 「まぁ座れよ。」 「ぁ…ありがとうございます。」 「当ててやろうか?浮かない顔の理由。」 向かいに座った白川先生が机の上のPCをパタンと閉じた。 肘を突いて手を組むと、顎を乗せてニヤリと微笑む。 キャンドルの揺れる光が灰色の瞳に映って同じ男なのに、妙にドキッとしてしまう。 「寺崎と喧嘩でもした?」 俺はビクッと肩を上げる。 それから、小さく溜息を吐いて苦笑いしてみせた。 「何で分かったの?超能力かなんか?」 肩を竦めて見せると、白川先生はふわっと微笑み、続けた。 「残念だな。俺に超能力はないよ。けど、秋空、制服なのに一人じゃん。試合の帰り一緒に帰るの見たし。」 「…一緒に帰ったよ…だけど…ちょっと喧嘩になっちゃって…アイツ、何か今日変だったんだよ」 白川先生は「へぇ…」と呟く。 「変って…どう変だった?」 「…どうって…それは…えっと…」 まさかキスして来たなんて言えない…。 だって、あれは冗談な訳だし、きっと他の事でイライラしてたに違いないんだ。 膝元で組んだ手を見つめる。 俯いていた俺の髪にフワリと何かが触れて、俺はパッと顔を上げた。 白川先生が俺の髪に触れながら呟く。 「秋空、髪染めてんの?」 「え?…あぁ、いやっこれは地毛っすよ。俺、元々色素薄くて、中学でも申請書出してたくらい。先輩に絞められかけた時も、青葉が助けてくれて…」 「ふぅん…ずぅっと一緒なんだ…寺崎と。」 白川先生が目を細め、髪から手を引いた。 俺は何となく触れられていた髪を撫で付けるように触った。 「幼馴染みっすよ。別にずっと一緒って訳じゃないんだけど…いや…気付いたらまぁ…一緒なんだけど、家も向かいだし…離れる機会が無いだけっつーか…」 「そんな仲良しのおまえらが、何が原因で喧嘩だって聞いてんの」 「だからっ…それは…」 「それは?」 「…やっぱ良いや。先生に言っても解決しないし。俺、帰るわ」 カバンをギュッと握り立ち上がると、白川先生は俺の腕を引いた。 「な、何?」 「コーヒー、一杯付き合って」 灰色の 瞳が 微笑んだ。
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