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デコレーションにピストル 11
11
「へぇ…じゃ、アメリカから帰って来たばっかりなんだ。」
「向こうにも家があるからね。間に合うと思ったら天候の都合で中々飛行機が飛ばなかったんだよ。おかげで始業式に間に合わず…初日から随分叱られちゃってさ。落ち込んでる時におまえらが通ったの。青春って感じだった。はしゃいじゃってさぁ」
「べ、別にはしゃいでたわけじゃ…」
いや、汗かくぐらいはしゃいだ後だったな…。
白川先生の奢りでコーヒーを頼んでもらった俺は、苦笑いしてカップを煽った。
「秋空、彼女は?」
突然の質問にブハッとむせてしまう。
「アッチぃ…」
「フフ…なぁんだ、その様子じゃ…いないな?」
俺はブスッと膨れながら、テーブルにある紙ナプキンで口を拭いた。
「白川先生みたいに不自由してませんってタイプには分かんないよ!」
「何が?」
キョトンと首を傾げる白川先生。
「何がって!彼女の出来ない苦労だよ!言っとくけどさっ!モテないわけじゃないんだぜ?…何かタイミングとか、チャンス逃すっていうか…」
「秋空はモテると思うよ…彼女が出来ないのは…そうだなぁ、誰かが意図的に仕組んでたりして…」
切長の瞳がキラッと光る。
「誰かが?何でそんなっ!俺、恨み買うような事しないよ?」
「秋空は素直だなぁ…」
「俺にはさっきから白川先生が何言ってんのか分かんないけどね?」
馬鹿にされてるのか、子供扱いされてるのか、はたまたそのどちらもなのか、俺は椅子にふんぞりかえる。
「なぁ…その白川先生ってやめない?」
「え?」
白川先生は俺の発言なんてお構いなしに別の話を振って来る。
背もたれから背中を離し、前傾になり首を傾げる。
「俺、冬の空って書いてトアって言うの。トアって呼べよ。似てるだろ?秋空と」
「へぇ…冬空…冬生まれ?」
「アハ!当たり。秋空は秋だろ?」
「フフ、あったり!単純だよね」
「うん、だなぁ。でも気に入ってる。秋空に会ってからは、もっと好きになったよ」
「ぇ…あ、えへ、海外長いとそういうのサラっと言うのな。」
ポリポリと頰を指先で掻きながら照れてしまう。
「そういうの?」
不思議そうに首を傾げる白川先生。
「いや、ほらさ…今日も秋の空で秋空って綺麗な名前だって。あぁいうのさ、女子に言ったらイチコロってヤツだろ?白川先生ならそんな言葉も要らないだろうけどさ」
「冬空…呼んでみな」
「ちょっ、聞いてんの?」
「聞いてるよ。秋空は俺の話聞いてる?冬空って呼んでって言ったばかりだぜ?」
「だって!…」
言い返そうとすると、先生は真っ直ぐ俺を射抜くように見つめた。
「…っわかったよ!冬空!」
「フフ、宜しくな」
「押しが強ぇ…」
「日本人は押しに弱いね」
ククッと楽しそうに笑う冬空は先生と言うより少し年上の先輩のようだった。
チラッと腕時計を見る。
時間は20時になる。
「俺、そろそろ帰るよ。またバスケ教えて!」
「送るよ」
「平気だって!そんなに遠くないし。」
「ダメだ。一応、秋空は生徒だからな。何かあったらまたあのハゲ教頭にドヤされる」
冬空はPCをカバンにしまいながら席を立つ。
ザワザワと周りが色めき立って目立って仕方ない。
俺は手提げカバンをリュックのように背中に担ぎ、席を立つと仕方なくレジに向かう冬空に続いた。
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