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デコレーションにピストル 5
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「青葉っ!まてよっ!青葉っ!何?お前機嫌悪くね?」
「悪くねぇよ。秋空が遅いだけだろ」
「遅いって、休み時間始まったばっかじゃんか。何?腹減ってんの?お前昔っから腹減ると不機嫌になるもんなぁ〜。フリスク食べる?ホラ!」
ポケットから出したフリスクを手のひらに出し、粒を差し出すと、青葉は俺の手首ごとグイと引き寄せ、ソレを舌でベロっと掬い取り食べた。
「ちょっ!」
光が射す渡り廊下の真ん中で、ビックリした俺の声が響く。
手首を握る青葉の手がデカい事と、痛い事の両方に身体が強張った。
「い…いてぇから…」
ギュッと腕を引っ張ってみたけど、青葉は離さない。
「何?…どうしたの?おまえ、ちょっとさっきから変だよ?」
「んなのは…」
「は?何?」
離してくれない腕に力を込めながら顔を顰めた。
「変なのは秋空だろっ!!白川なんかに浮かれてっ!」
「ハァ?浮かれっ?!何言って」
「あっ!居たっ!秋空っ!」
青葉に怒鳴りかけた時、渡り廊下に通じる階段を上がってきた白川先生が俺の名前を呼んだ。
「秋…空?」
腕を掴んでいた青葉がゆるりと手を離して呟いた。
「さっきの見てた?なかなかだったろ?」
俺は青葉との変な空気を感じ取られたくなくて、繕うように話を合わせた。
「ぁ…あぁ…すげぇ…あの距離からのシュートはヤバいよ!てか…何で…その…名前…」
「名前?あぁ…秋空?呼び捨て?ダメ?せっかく綺麗な名前なんだから呼ばないと勿体ないだろ?」
「そ、そうかな…」
「そうだよ。なぁ…テラサキ」
白川先生はニヤリと片方の口角を引き上げ青葉の苗字を妙なテンポで呼んだ。
チラッと青葉に視線をやると、酷い顔をして、その場から走り出してしまった。
「あぁ〜ぁ…行っちゃった。あれ?秋空、追いかけないの?」
「えっ…ぁ…あぁ…しっ失礼しますっ!」
白川先生に言われ、慌てて青葉を追った。
一体何が起こったのかよく分からないままだ。
ただ、青葉が変で、白川先生も変だった。
そんな気がするだけで、俺は結局追い付かなかった青葉を見失った。
移動教室の青葉の席は空。
サボりなんて珍しい。
俺は風が吹くたびにチラチラ舞う桜の花弁を眺めながら、溜息をついた。
青葉と喧嘩みたいになるのなんて…
きっと小学校以来だな…。
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