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デコレーションにピストル 80
80
青葉の家から帰った俺は、春子さんの顔も見れず、部屋に引きこもった。
青葉を振るって事が、思ったよりもずっとずっと堪えたせいだ。
青葉の腕の中は、驚くほど安心した。
離れたくないくらいだった。
ただ、ドキドキはしなかった。
冬空に抱きしめられた時みたいに、どうしようもない甘い激情には襲われなかった。
つまり、そういう事だと理解した。
青葉は俺にとって、かけがえのない家族だ。
泣きじゃくる俺を抱きしめて、背中をさすりながら、青葉が言った言葉が耳を離れない。
"おまえを好きになって良かった。"
それから、幸せにしてもらわなかったらアイツぶっ殺すからなって物騒な事を言いながら俺の鼻を摘んだ。
俺が泣くから、一生懸命笑ってくれる青葉が目に焼き付いてる。
俺は携帯を握りしめて冬空に連絡を入れた。
数回のコール。
低くて甘い声。
「秋空…」
ズズッと鼻を啜る俺。
「泣いてるのか?…俺が側に居ない時に…泣くなよ」
「ふふ…何だよ、それ…慰めてんの?」
「迎えに行くか?」
「ダメだ…今日は…ダメ…」
「…どうして?」
「昨日の外泊…青葉の家に泊まってた事にしてくれてた…青葉に、冬空が好きだって…ちゃんと伝えた…青葉は…家族みたいに大切で、家族みたいに好きだって伝えた…泣きそうな顔で…笑って俺の気持ちを分かってくれた…今…きっとアイツ一人で泣いてる…俺のせいで…それなのに…今、俺だけ冬空に会えない。」
キュッと唇を噛んだ。
小さな溜息が聞こえる。
呆れられただろうか…。
「秋空のそういうところ…好きだよ…見えてないのに…寄り添うんだな…俺の方がガキみたいじゃんか…」
「冬空…」
「長く話すと…会いたくなるな…明日…学校で。」
「…うん…明日…学校で」
切れた携帯の画面を額に押し付けた。
苦しい。
さっきまで一緒に居たくせに…声を聞いたら会いたくなって、こんな気持ちは初めてで…青葉が俺を想ってどんなに苦しかったかを思い知る。好きって苦しさを…思い知る。
明日、もし青葉が迎えに来てくれたら、俺たちは少しずつ今までと違う関係に変わるだろう。
それが仕方のない事だと噛み締めて、泣き疲れて眠ってしまった。
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