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デコレーションにピストル 9
9
その日の練習試合は俺と青葉の活躍で圧勝。
バスケ部員からの正式レギュラーのお誘いをなんとか振り切って体育館を後にした。
「青葉…今日さ…」
「何?」
やっぱり青葉は不機嫌だった。
「…なんか怒ってんのかよ」
手持ちカバンをリュックのように背負った俺は青葉の前にぴょんと飛び出して行く手を阻む。
青葉は視線を逸らして俯き具合に呟いた。
「いや…怒ってなんかないよ…ちょい体調悪いみたい。早く帰って寝るわ」
「…本当か?」
俺は上目遣いに青葉を覗き込む。
青葉は大きな手のひらで俺の頭をクシャクシャと撫でた。
「本当だよ。心配かけてごめん」
俺はホッとして青葉の横にピタリとくっつき脱力してみせた。
「青葉、今日何か変だったから心配したじゃんか。体調悪いって…いつから?本当に大丈夫か?」
俺は立ち止まって青葉の腕を掴み、前髪をかきあげて額同士を合わせた。
みるみる青葉の顔が真っ赤になっていく。
「おっまえ!大丈夫かよっ!真っ赤じゃんかっ!早く帰んぞっ!」
熱がある、ないに関わらず紅潮する青葉が心配になり、手を握り引っ張って歩いた。
昔よく遊んだ公園の横を通る。
あの頃もよくこうやって手を引いて、転んだりした青葉を家に連れて帰った。
ズンズン歩く俺の足が軽々と引き戻される。
「ぅわあっ!青葉っ?」
よろめいた俺を抱き止める青葉に文句を投げつける。
「あっぶねぇだろ!急にどうしたんだよ?」
胸元に手を突いて顔を見上げると、青葉は顔を傾けて俺の唇を塞いだ。
…青葉の唇で。
ドンッと強く彼の胸を突き飛ばす。
ゴシッと腕で唇を拭い、ビックリした表情のまま青葉を見つめる。
「…ハハ…そんな顔…すんなよ」
「いやっ!何っ?!えっ?!マジで何?」
ちょっとしたパニックに、青葉が俯いたまま乾いた笑いを交え呟いた。
「秋空が、彼女欲しい、彼女欲しいって…欲求不満みたいな事言うから…ちょっとほら…練習?的な?」
「的なって…んだょ…今そんな事言ってないだろっ!冗談にしても笑えねぇよっ!」
「フッ…ハハ…何で?何で笑えねぇの?俺が男だから?」
「…青葉…やっぱおまえちょっと変だよ…体調、かなり悪いんじゃないか?…我慢とかすんなよ!俺にちゃんと言えばいいだろっ!こんな回りくどいやり方でっ」
「変じゃねぇょ…」
「え?」
「変じゃねぇよっ!!バカ秋空っ!!」
青葉は怒鳴ったかと思ったら走り去ってしまった。
公園横にポツンと取り残されてしまった俺は、青葉が触れた唇を、指で恐る恐る撫でていた。
青葉が…青葉じゃないみたいで…
俺は凄く
怖かった。
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