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デコレーションにピストル 1
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苦しい恋など…
するものではない。
高校2年の春。
悪戯な出会い。
迂闊な心の隙間。
あの時に…気付いておくべきだった。
あの時に。
「こらぁ〜廊下走ってんじゃねぇぞ〜」
俺、斉藤秋空(さいとう あきら)は幼馴染で同級生の寺崎青葉(てらさき あおば)とじゃれあいながら廊下を走っていた。
春休み明けの新学年スタートに心躍らせていたんだろう。
はしゃぎすぎた身体に、汗が背中を流れるのを感じながら、聞き慣れない声に振り返った。
そこには若いスーツ姿の男が一人立っている。
キラッと太陽光が眩しくて、手のひらで庇を作り、向こう側に立つ男を足元から掬うように見上げた。
「危ねぇから走るなよ」
俺と青葉はとりあえず「は〜い」とチャラい返事を返し、ポケットに両手を突っ込んで目前の短い階段を上がった。
青葉に自分の肩をトンと当てて呟く。
「なぁ、誰?さっきの金髪」
青葉は肩をヒョイと竦めて「さぁ…」と返事した。
出会いはたったそれだけの事。
だけど、透き通るような金色の髪と、灰色に光る不思議な瞳の色が、妙に目に焼きついた。
桜舞い散る4月の晴れ渡った空を校舎の窓から目を細めて見つめる。
「なぁっ青葉っ!今年こそは彼女っ!作ろうなっ!」
振り向いて笑いかけると、青葉は苦笑いした。
「二組の女子、残念揃いだって言ってたぜぇ、今年も難しいんじゃねぇの?」
「ゲェ〜、マジかよぉ…俺の童貞卒業の旅はまだ続くのかよ〜!そろそろおさらばしてぇ〜」
「ハハッ!秋空はそればっかじゃん、お互いがんばんべ!」
「だなぁ〜」
頭の後ろで腕を組みブーブーと文句を言いながら渡り廊下を歩いて教室に戻る。
初日はあっという間に過ぎて、俺と青葉は近所のラーメン屋でラーメンなんか食って帰った。
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