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太宰治と言えば、『走れメロス』や『人間失格』、『斜陽』が有名である。私はいずれも読んだことがあった(『斜陽』は途中までである)。
話を戻して『待つ』になるが、4ページ程度の本当に短い話で、この短編集を開くまで聞いたこともなかった。これは、主人公の”私”が「何か」を、駅のベンチで待っている至極単純な話だ。しかしながらその「何か」が分からないのがミソだった。私は私なりの見解を持っているが、ここで自論を示す必要はないだろう。
同じ短編(『待つ』)を繰り返し読んでいるうちに電車がやってきた。乗り物酔いをしやすい私は、手汗が滲んだブックカバーを恥じるように本をカバンへしまい込んだ。
瞼を下ろし、私は”彼女”に想いを馳せる。たった二駅分の線路は短く、私は体が冷えたまま電車を降りなければならなかった。うっすらと雪が積もり、白くなりかけた無人駅のホームに、私一人分の足跡ができる。
ベンチの前を通り過ぎるとき、私は”彼女”の幻覚を見た。
きっと”彼女”はもうどこにもいないのだろう。「何か」に出会えていたなら良いと思う。
もし、私が声をかけていたなら、彼女は困った顔をしたに違いない。
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