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私は駅のホームのベンチに腰を下ろし、一冊の本を開いた。一時間に一本しかない田舎の電車を私は待っていた。雪の降る季節である。当然手はかじかみ、ページをうまくめくれないでいた。しかし私は、電車を待つこの時間に本を読むことを日課としており、寒さに身を震わせながら文字を目で追うことが好きだった。
紙のブックカバーをかぶせた本は、一年前に買って埃を積もらせていたものだ。実際には一度読んだことがあったのだが、その一度きりだった。近所の書店で買ったその本は、日本の近代作家達の短編集である。
普段近代文学を嗜まない私には、理解が難しい内容であった。しかしその中で一編だけ、記憶に残るものがあった。私はその一編のために、埃を払って手に取ったのだ。
それは太宰治の『待つ』である。
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