序章

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18歳の誕生日から教習所に通い始めて苦節4年。 筆記は受かるのに、実地で落ちるを繰り返す。 大学受験と併用していたのもあるかもしれない。 それが!ついに、ついに!! 「やったー!取れたわ!念願の運転免許証ー!」 高々と持ち上げた免許証に後光がさして見える。 教官たちがうんうんと頷いて喜び合った。 手がかかった生徒だったと我ながら思う。 「お世話になりました!」 目頭を押さえる教官たちに見送られて、教習所を後にした。 「良かったじゃない!おめでとう!」 「大和(やまと)先輩!おめでとうございます!」 所属している大学の演劇サークルで、同級生や後輩からの祝辞に涙が出ちゃった。 就職も決まったし、後は卒業公演に慢心するだけ! 私は脚本・大道具担当。物語を妄想で書いて背景を布に描く係なの。 舞台セットはほぼ完成していて、役者と練習しながら脚本の直しをしていく。 喧嘩みたいになるけど、良くなっていく物語に高揚しながら進めていくのが好きなのよね。 「日向(ひなた)先輩。車買うんですか?」 「もちろん!今日買いに行くの。明日から終電を気にせずに作業できるよ」 学校はお泊まり禁止。 衣装の子や役者の子たちも遅くまで練習して、終電で帰るのが日課だ。 私を含めた4回生のために、気合の入った練習をする後輩たちを送って行ける。 ちょっと免許取るのが遅かったけどね。 車を買いに行くのため、私だけ少し早めに切り上げた。 バイトでコツコツ貯めたお金は50万。中古なら買える! スキップしながら入った中古車屋さんは、見渡す限りオンボロ車が並でいた。 入るところ間違ったのかな。 携帯で検索した予算にあった中古車店は……ここで合ってる。 メガネをかけた白髪のお爺さんが気だるそうに出てきて、 「子供に売る車なんぞないぞ」 「いやいや、もう私今日で22歳ですから。これ免許証です」 どや顔で差し出した免許証と、私をジロジロ見比べる。 童顔なのは自覚していますとも、思う存分どうぞ! 小回りの効く小さめなのがいいのと、予算を言っておく。 「50で小回りね、こっからあそこの赤い車まで買えるよ。試乗は2台まで。決まったら声かけて」 それだけ言ってあくびをしながら事務所に帰っていった。 ま……いいか。乗れればそれで良し! チョコレート色の可愛い車が目に入って、鍵をもらって試乗。 思ったよりスムーズに運転できて快適! オンボロなのは外見だけで、全然いい。 エンジンとか、中身はしっかり整備されているわ。 カーナビは携帯でいいし、オーディオにこだわりはない。 トランクが大きめでいい!布の買い出しもできそうだ。 「ふふ。決めるの早かったし、5万円引いてあげるよ」 いいのが見つかったって顔に出てたのかな。 お爺さんは笑顔で、嬉しい割引をしてくれた。 慣れていない見通しの悪い曲がり角。 浮かれていた私は、猛スピードでやってくるトラックに気付かなかった。 ドン!キキー!!ガッシャーン!! やってもた……指先が妙に冷えて動かない。 目を開けているのに真っ暗で。せっかく免許取ったのになー……
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