序章

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序章

 まだ薄暗い早朝。領民から「黒騎士」と親しみを込めて呼ばれる彼は、その名の通り黒基調の騎士姿で屋敷の者たちに見送られ、城へ向かう。 「行ってらっしゃいませ。バージル様」 執事から上着をかけられて、小さく頷く。 用意された馬へ歩く途中、少しの違和感を感じて立ち止まった。 「バージル様!」 誰かの叫び声で振り向くと、メイドが必死な顔で駆け寄って来る。 彼女ごしに黒づくめの若い男が見え、短刀を持ったその男は目を瞑ったまま真っ直ぐに彼女に突進。 咄嗟に護衛たちが、男を左右から取り押さえたが遅かった。 彼女がゆっくりと前のめりにこちらへ倒れてくる。 「!!」 彼女の右肩の背中に、短刀が深々と刺さっていた。 気を失った彼女を支え、しゃがみ込む。 「医者を呼べ!」 「バージル様、搭城の時間に遅れてしまいます」 「しかし……」 メイドの顔に見覚えがある。最近メイドとして雇った、貧しい身なりをしていた女の子だ。 早く慣れようと必死で働く姿を思い出す。 咄嗟とはいえ刃物の前に立つとは…… 「必ず助けろ。必ずだ」 「承りました」 後ろ髪を引かれながら、馬を走らせた。
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