3-5 話し合い 

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3-5 話し合い 

 渚と祐樹が同時に里中の方を見た。 「何だ、お前…?」 祐樹は渚を放すと里中に言った。 「間宮は俺の友人だ。一体何をしてるんだ?お前こそ、誰だ?」 里中は祐樹を睨み付けた。 「里中さん…?どうしてここに?」 渚は驚いている。 「人に物を尋ねる時はまず、自分から名乗るべきじゃないか?」 祐樹はフンと鼻を鳴らして言った。 「俺は里中裕也。お前は?」 「橘祐樹。渚の幼馴染だ」 「え?間宮の幼馴染…本当なのか?」 「嘘言ってどうするんだよ。疑うなら渚に聞けよ」 祐樹は渚を見て言った。 「うん。祐樹は僕の幼馴染だよ。暫く会っていなかったんだけど、この間偶然再会したんだ」 渚が言った。 「勝手にいなくなったのはお前の方だろう?渚」 祐樹は面白くなさそうに言った。 「立ち話も何だ、どこか場所変えるぞ」 祐樹はそう言ったが、渚は気乗りがしないように言った。 「あの…僕はもう帰りたいんだけど…」 「逃がさねえよ」 祐樹はガシッと渚の腕を掴んだ。 「…俺も同席してもいいか?」 里中は祐樹に尋ねた。 「好きにしろよ」  3人は国立公園の中に併設されているカフェにいた。丸いテーブルに男3人座っている。 「「「…」」」 暫く3人は無言だったが、渚が口を開いた。 「ところで、里中さん。どうして今日はここにいたんですか?」 急に話を振られて里中は焦った。 (う…ヤバイ。理由を考えてなかった。ど・どうしよう…) その時、里中の眼に国立公園の温室で開催されているサボテンフェスタのポスターが目に入った。 「お、俺はサボテンを買いに来たんだ!ほら、あそこにもポスターが貼ってあるだろう?」 「へえ~里中さん、サボテンが好きだったんだ。ちっとも知らなかったよ」 渚が感心したように言った。 「おう!そうだ、知らなかっただろう?」 (あ~何がサボテンだ!もう少しまともな嘘つけば良かった!) 「サボテンねえ…?」 祐樹は疑わしそうに里中を見ていた。 「里中…だっけ?お前らはいつから知り合いなんだ?」 「俺達は知り合ってそんなに経っていない。ここ2か月ってところだ」 「僕たちは同じ敷地内で働いているんだ」 「敷地内?それってお前も飲食店で働いてるって事か?」 「いや。俺と間宮が勤務しているのは病院だ。俺は理学療法士で間宮は病院内にあるレストランで働いてる」 「へえ~。レストランで働いてるって話は本当だったんだな?」 裕也は渚を見て言った。 「う、うん…」 渚は居心地が悪そうに言った。 「俺も聞きたい事がある。何でさっき間宮に掴みかかってたんだ?何かこいつがお前を怒らせるような事でもしたのか?俺から言うのも何だが、間宮は人の恨みを買うような奴じゃないぜ?」 里中は裕也を睨み付け量に言った。 「へえ…あんたには渚がそういう男に見えるのか?」 祐樹は意味深な事を言った。 「…」 渚は二人の男に挟まれて無言である。 「あんたが渚をどういう目で見てるかは知らないが、少なくとも俺から言わせれば本来の渚はこんな男じゃないぞ?はっきり言って悪人だった。でも今の渚はまるで別人だ」 「どういう意味だよ?」 「だから、俺はそれを渚に問い詰めてるんだよ!」 祐樹はテーブルをドンと叩いた。 祐樹の迫力に押されて渚がビクッとした。 「おい、お前何言ってるんだ?少し落ち着け」 里中は慌てて祐樹を止めた。 「そりゃ、昔は暴れてた奴だって更生して社会人として真面目に働いてる奴だっているだろう?」 「昔ってお前いつの事を話してるか知らないが、俺が言ってるのはせいぜい半年程前の話だ。幼馴染だからこそ言うが、どうしようもない悪だったんだぞ?こいつは。前科は流石に無かったが、警察の世話になったのは一度や二度じゃ済まなかったしな」 祐樹は渚を横目で見ながら言った。 「う、嘘だろ…?」 里中にはとても信じられなかった。 「だから、俺は渚に言ったんだ。お前は誰だって?渚の知り合いで整形でもしたのか?何たってこいつ顔だけはいいからな」 渚は下を向いて歯を食いしばって肩を震わせながら言った。 「ち…違う。僕は…」 「おい、はっきり言え!やっぱり渚の偽物か?」 祐樹はかなりイライラした様子で言った。 「間宮、どうなんだよ?まさかお前、本当に…?」 渚は顔を上げてはっきりと答えた。 「僕は渚だよ。間宮渚、他の誰でも無いよ」 「なあ、間宮がここまで自分は渚だって言ってるのに、何を疑ってるんだ?だって姿も声もお前が知ってる間宮と変わりないんだろう?そこまで疑う根拠は何処にあるんだ?」 里中は祐樹の方を向いて言った。 「犬だよ」 祐樹はぶっきらぼうに言った。 「は?」 「だから、渚じゃないって疑ってる根拠は犬だって事だよ。お前は知らないだろうが渚は昔から犬をずっと嫌っていた。高校の時は近所で飼われている犬が煩いと言って石を投げつけて怪我をさせた事だってあるんだぞ?そんな男が犬を『可愛い』なんて言うと思うか?」 「え…それだけの理由でか?」 里中は呆れたように言った。 「…」 渚は黙っている。 「何だよ、それだけの理由じゃ駄目なのかよ?」 何か文句でもあるのかという目で祐樹は里中を見た。 「いやいや、それだけの理由で偽物だって決めるのはあまりに変だって。第一突然昨日まで大嫌いだった食べ物が突然今日になって好きになるって事だってあるだろう?」 渚の肩を持つわけでは無いが、あまりに無茶苦茶な理由だと里中は思った。 「ふん、そこまで言うならもういいさ。今日の所は引き下がってやる。けどな、絶対俺はお前の正体を見破ってやるからな?」 言うと、立ち上がった。 「まだ僕を疑ってるの?」 渚は目を伏せた。 「え?お前、帰るのか?」 「ああ、俺はこれから仕事なんだよ。え~と、お前何て名前だったっけ?」 「里中だ。里中裕也」 「じゃあ、里中。またな。そうだ、お前らに名刺渡しておくわ」 祐樹は胸元のポケットから名刺カードを取り出して二人に渡した。 「ショットバー<Backus>…?」 名刺を受け取った里中は読み上げた。 「お前、ショットバーで働いてるのか?」 「祐樹でいいぜ。雇われだけどな、夜だけバーテンとして仕事してる。ちなみに夕方から夜8時までは小中学生の塾講師をしてるんだぜ?」 「ええ?!塾の講師をしてるのか!」 里中は驚いた。 「何だ?その驚きようは。そんなに意外か?」 「里中さん、祐樹は子供の頃から頭が良かったんだよ」 「チッ、偽物のくせにまだそんな事を言って渚のふりをするのか?」 「僕は別にそんなつもりじゃ…」 渚はうなだれた。 「おい、もうそこまでにしておけよ」 里中は祐樹を止めた。 「まあ、いいわ。長居すると遅刻してしまうしな。お前ら、今度店に飲みに来いよ。まだまだ話したりない事があるし。それに渚、お前にもな」 祐樹は渚に振り返って言った。 「分かった。そのうち飲みに行くから。その時はサービスしろよ?」 里中が言う。 「里中、お前って中々図太い奴だな?」 にやりと笑うと裕也は店を出て行った。 「「…」」 後に残された二人は暫く黙っていたが、やがて渚が口を開いた。 「今日はありがとう、里中さん」 「え?何が?」 「里中さんがいてくれなかったら、見逃してもらえなかった」 「間宮、お前…本当に間宮なのか?」 「うん。僕は間宮渚だよ。間違いなくね」 渚は寂しそうに笑った。 「そっか…お前がそう言うなら、俺は信じるよ」 「ありがとう」 「ところで、これからお前はどうするんだ?」 「実はね、今日は本当は仕事だったんだ。けれど急に祐樹に呼び出されたから臨時で休みを貰ってここに来たんだよ。でも千尋に心配かけさせたくなかったから、今日は仕事だって嘘ついてきたんだ。まだ家に帰る訳にはいかないし、何処かで時間潰してから帰るよ」 「そっか…分かった。じゃあ俺も行くよ」 渚も帰ろうと荷物を持った時に渚が声をかけてきた。 「そうだ、里中さん。サボテン買いに行くんですよね?」 「え?あ・ああ。そうだな」 (やべ~サボテン買いにきたって話すっかり忘れてた!) 「僕にも今度お勧めのサボテンあったら教えてくださいね?」 渚は笑顔で言った。 「お・おう!そうだな」 里中は引きつった笑いを浮かべるのだった。  渚と一緒に店を出た里中であったが、やはり渚の事が気になって仕方がない。 (間宮が家に帰るまで、ちょっと後をつけさせて貰うかな?) 里中はどうしても渚の事を疑う祐樹の事が頭から離れずにいた。今日、渚の後をつければ何か情報が得られるかもしれないのではと考えたのである。  前を歩く渚にバレないように里中は慎重に尾行を始めた。 渚は駅に向かって歩いている。そして駅に着くとそのまま電子マネーで改札を通ってホームで電車を待つ。 「やっぱり、ただ家に帰るだけなのか…?」 柱の陰から渚の様子を伺う里中。 やがてホームに電車が到着し、ドアが開くと渚は乗り込む。里中も慌てて二つ隣の入り口から乗り込んだ。そして里中の予想通り、渚は地元駅で降りたのである。 「やっぱりこのまま帰るのか…?」 しかし予想に反して、渚はあるバス停に向かって歩き出してた。 「え?間宮、一体どこへいくつもりなんだ?」 里中も人混みに紛れながら渚が並んだバス停に一緒に並んだ。バスはかなりの長い列が出来ている。 (一体、このバスは何処へ行くバスだ?)  バスは意外に早くやってきた。バス停に並んでいた里中は何処に行くバスなのか確認して驚いた。 (え…国立総合病院?この市内で一番大きい病院じゃないか?一体何しに行くんだ?) その時里中の頭に以前渚が言っていた言葉が頭をよぎった。 <僕はずっと千尋の側にいる事は出来ないから—> (もしかすると間宮は重い病気にかかっているのか?)  それから病院に着くまでの間、里中はずっとモヤモヤした気分でバスに乗っていた。やがて国立総合病院に着くと渚は突然ポケットから帽子を被り、マフラーを付けて顔を隠すとさっさと降りていく。必死で後を追う里中。そうしないとあまりの人の多さに渚を見失ってしまいそうだったからである。  病院に着いた渚は何故か外来で受付をする事も無く、入院病棟がある棟に歩いて行く。 (入院病棟?だれか知り合いでも入院してるのか?それにしてもどうしてわざわざ顔を隠すような真似してるんだ?) まるで謎だらけである。渚はエレベーター乗り場の前に立つとボタンを押してやってきたエレベーターに乗り込んだ。 「ヤベッ!エレベータに乗り込んだか?何処で止まる?」 困った里中は取りあえずエレベータの動きを見守った。すると程なくして5階でエレベータは止まり、そのまま動かなくなった。 「よしっ!5階で間違いなさそうだ!」 里中もボタンを押してやってきたエレベータに乗り込むと5階を押した。 5階の入院病棟はひっそり静まり返っていた。渚の姿は見えない。 「ふ~やっぱり見つからないか…」 その時、ナースステーションの方から話声が聞こえて来た。 「ねえ聞いた?502号室に入院している意識不明の身元不明の患者さん、時々指先とかが動くようになってきたんですって」 「ああ、その話なら私も知ってる。先生たちの話ではもうすぐ目を覚ますんじゃないかって言われてるでしょ?」 「楽しみだね~早く目覚めないかな~」 それらの会話を廊下で聞いていた里中。 「ふ~ん…変わった患者が入院してるんだな」 その時、ふと気が付いた。自分が立っている場所が502号室の前だと言う事に。 「どれ…ちょっとどんな奴か顔を拝んでみようかな。失礼しま~す…」 里中は小声で病室へ入り、ベッドで眠っている患者の顔を見て驚いた。 「な・渚…?」 そこに眠っていたのは渚だった―。  
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