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翌日、レンターカー屋さんで軽バンを借り、引っ越しを決行した。
妊婦の早紀ちゃんに早く部屋を譲りたかったし、家具家電はそろっているというので、善は急げだ。
陽介のこともあって、全てを一からやり直したいという気持ちもあった。
月曜の開発会議までに、平常心を取り戻したい。
そう願う私にとって、この引っ越しは都合が良かったのだ。
実家でお昼ご飯を食べてから、段ボール10箱と一緒に、目的地に向かう。
半年ぶりの運転ということもあって、少しだけ怖かった。でも23区の一軒家に住めるというワクワクが勝っていた。
午後2時。
カーナビに誘導されて辿り着いたのは、荻窪駅の南側、図書館や公園にほど近い、閑静な住宅街だった。
「うわあ、凄い」
思わず、独り言が口をつく。
早紀ちゃんって、お嬢様だったんだ――。
立派な数寄屋門の奥に見える、伝統的な日本家屋。中に入ると、広々した庭に、松などの庭木や庭石が上品に配置されていた。
本当に、こんなところに住んでいいのだろうか。
ここに来て、気遅れしてしまいそうになったけど。
いやいや、他に行くところはないのだから。
景気づけに自分のほっぺたをピシャリと叩き、鞄から鍵を取り出した。
そうして、おそるおそる開錠したんだけど。
ん? 確かにカチャリと手ごたえがあった。
なのに引き戸は、ピクリとも動かない。
もう一度、鍵穴に鍵を差し込み、反対方向に回してみる。
カチャリ。
「え……なんで?」
今度はすんなりと、扉が開いた。
て……ことは、最初から開いていたってこと!?
「まさか、泥棒?」
一瞬で血の気が引く。
どうしよう、警察を呼ぶ?
でも、私の勘違いだったら……。
「おおーい。誰かいますかー」
蚊の鳴くような声で呼びかけてみる。
答えは返ってこない。
今度は大声で呼んでみる。
「こんにちはー、誰もいませんよねえっ!」
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