初めましてこんにちは、どん底三十路女です

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と、奥から男の声がした。 「チッ、なんだよ朝っぱらから、うるせえなあ。新聞なら取らねえ、つってんだろうがよ」 朝ではない、昼過ぎだ。 そして私は、新聞屋ではない。 いや、そんなことはどうでもいい。 パニックを起こしかけた私の前に、声の主が現れる。 「ホ、ホームレス!?」 思わず、声に出してしまう。 着ている物といえば、よれよれのスエットに、首の伸びきったティーシャツ。 咥え煙草で、寝癖が激しいボサボサの髪。 片方だけのイヤホンからは、競馬中継らしい音が流れている。 まずい、無人の家を堂々と占拠しているホームレスなんて、危険極まりない。 貞操の危機を感じた私は、くるりと踵を返し走り出そうとして――。 「……ん?」 待って……あの長い前髪の下に見えた、切れ長の目。それから不機嫌に歪んではいたけど、薄く形のよい大きな唇。 まさか……いや、そんなはずはないのだけど。 恐る恐る、振り返る。 と、今度は男が踵を返し奥に駆け込んだ。 「え、え、え、えええええっ!?」 パニック、大パニックだった。 間違いない、あの顔は……嫌、でも世の中にはドッペルゲンガーってヤツもいるらしいし。 けど、だったらどうして逃げ出すのよ。 ああそうか、不法占拠がバレたから!? 玄関先で、悶えること数分。 「やあ、谷川さん」 あの男……いや、二階堂部長が戻ってきた。 真っ白なポロシャツに、糊のきいたチノパン。 髪はいつもの様に、清潔にかき上げられている。 どこかからどう見ても、企画部の至宝、二階堂類だ。 「どうしたんだい、そんな顔をして。ああ、そうか……白昼夢でも見たんだね、ハッハッハ!」 腰に手をあて、白々しく笑う。 その態度に確信した。 さっきのホームレスは、二階堂部長だったんだ――って。
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