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イケてる上司の裏の顔
*
「見ろよ七海ちゃん、月がきれいだなあ」
「誤魔化されませんよ」
「チッ、だったら、どうすりゃいいんだよ」
その夜。
私たちは、話し合いの席についていた。
正確には〝席〟ではなく〝縁側〟なんだけど。
目の前には、焼き鳥の山と日本酒。
雲ひとつないお空には、まあるいお月さま。
日本酒は切れの良い辛口で、大好物のぼんじり串と相性がいい。
これで晩酌相手がまともな人間なら最高なのに。
二階堂部長はその後、誤魔化しきれないと観念したらしい。すっかり紳士の仮面を脱ぎ、元通り汚いスエットとティーシャツに着替えている。
「だから何度も言ってるでしょう、今すぐ出て行って下さいって!」
「先住権は俺にある、つってんだろ」
「なによ、たった1週間先に住み始めただけのくせにっ、私は早紀ちゃんから管理をお願いされてるんだから!」
「ピーピーうるせえ女だな。それなら俺も英輔に同じことを言われてんだよ」
英輔というのは、早紀ちゃんの兄。
そして二階堂部長のパチンコ仲間らしい。
そう、この事態は早紀ちゃんたちのダブルブッキングによるもの。
数時間前、事情を知った兄妹は、酒と焼き鳥を携えやって来て。
「申し訳ないが今後のことは、ふたりで話し合って決めてくれ」
と、丸投げして帰ってしまったのだ。
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