なんだかとても疲れましたので

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「ご存知のとおり俺はクソ人間だ」 「は?」 「仕事も口先だけで適当にやってきたし、女遊びもまあ……人並みにそこそこは」 クソ人間の自覚はあるみたいだけど、女遊びは〝そこそこ〟ではなく〝ものすごく〟だと思う。 心の中で突っ込みながらも、下手に口を開くとなにをされるか分からないので、目だけで反論した。 それでもなんとなく私の意志は伝わったのだろう。類さんは大きく頷いた。 「信用できないのは分かる。俺がもしも女だったとしても、俺みたいなヤツには近づかない」 とても客観的な目をお持ちでいらっしゃる。 なんども首を縦に振って同意する私を見て、彼は財布を手に取ると「開けて」と渡してきた。 「え、いや……ひとさまの財布を開けるのは、ちょっと」 「片手がふさがっていて開けられない」 私を降ろせばいいじゃないの! と言っても聞き入れてはくれないだろうから、素直に従う。 「中のカード、全部出して」 「なんなのよ」 文句を言いながら中身を出す。 クレジットカード、免許証、保険証、社員証――。それらに混ざって、見るからに怪しげな深紅のカードと、パステルピンクのカードが出てくる。 「それ……中、見てみ」 財布と他のカードをデスクに置いて、二つ折りになった深紅のカードを開く。 「スタンプカード?」 三十ほどあるマスの中に、薔薇のマークのスタンプが、残り一個を残して綺麗に並んでいる。 「なんですか、これ」 「風俗店のサービスカード」 「ぎゃっ――新手のセクハラですか!」 思わず手放したカードが、ヒラヒラと舞いながら床に落ちていった。
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