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私が勤める『株式会社エデン・パック』は、大手フィルムメーカーだ。
医療用、輸液(点滴)バックの国内最大シェアを基盤に、電子部門、一般部門も活発で、帯電防止フィルムから、食品トレイ、アイディアグッズまで、幅広い商品を展開している。
従業員は1万人、東京本社をはじめ全国に5つの支社、そして多数の工場を持つ優良企業として、発展めざましい。
中でも花形とされているのは、本社、企画部だ。
入社時、私は企画部への配属を熱望した。
けれども新入社員では、一流大学卒の男性だけが、企画部に配置された。
営業部に配属された私は、医療系法人担当として2年後、トップ5に入る成績を収めた。
3年目、営業成績を維持し、企画部に移動を願い出た。でも叶わなかった。
4年目、5年目、それでも腐らず、ついに2年連続トップ3という、女性初の偉業を成し遂げた。さらにはTOEIC・TOEFL・商品開発コーディネーターなど、役に立ちそうな資格を片っ端から取得した。
そうして6年目、28歳の春――ついに念願の辞令が出た。
【谷川 七海、企画部・商品開発チーム勤務を命ずる】
色気も愛想もない短文。
【おめでとう、谷川七海さん、苦節六年、ついに花の企画部、商品開発チームへの転属が決まりましたよ!】
くらいのテンションは欲しい所だけど、まあ、いい。ようやく企画部、それも商品開発に携われるのだから。
とはいっても、企画部では新人だ。
男性が9割を占める部署ということもあり、負けるものかと必死に働き、勉強もした。
幸い上司や同僚に恵まれ、めきめきと仕事が面白くなった。
そして、翌年の春――。
一般向けに展開する、清涼グッズの企画を任された。
天にも昇る気持ちだった。
恋人と会う時間は少なくなったけど、彼、市原陽介も、エデン・パックに勤める同僚として応援してくれた。
法人営業部で同期だった彼とは、入社直後からつき合い始めて6年、結婚も視野に入れている。
陽介は私が企画部転属のため、努力に努力を重ねていたのを、誰よりも近くで見守ってくれていた。
だから、安心していた。
きっと理解してくれてるって。
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