初めましてこんにちは、どん底三十路女です

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* * * 週明けに開発会議を控えたその日。 私は資料の最終チェックに没頭していた。 定時はとっくに過ぎている。 資料は何十回も見直した。 それでも不安が拭えなかったのだ。 開発会議の主役。私が発案した、夏用マフ『クールンルン』は、特製フィルムに包まれたアイスジェルが、首元だけでなく、背骨にダラリと伸びる仕組みになっている。 当初は背部が不安定で気になる、と不評で随分と苦労した。でも『クールンルン』の肝は、この部分だ。試作に試作を重ね、ようやく最終開発会議まで漕ぎ着けた。だから、絶対に失敗はしたくない。 そう思うと、時間はいくらあっても足りなかった。 午後8時。 ふいに背後から、缶コーヒーが差し出された。 「谷川さん、なにか手伝おうか?」 声の主は、我が企画部の部長、二階堂(にかいどう) (るい)。 彼はそのたぐいまれな美貌と才脳で、企画部の至宝と評されている。 年齢は35歳。若干30歳で最年少部長に昇格した、本物のエリートだ。 加えてその容姿も、文句のつけどころがない。 180センチ近い高身長。スーツは嫌味のないお洒落な着こなしで、長めの前髪を軽く後ろに流したヘアスタイルが抜群に似合う、さっぱりとした和風イケメン。 そしてバツのない独身とくれば、それはもう、社内にとどまらず、取引先の女子社員までもが、恋人の座を虎視眈々と狙っているらしい。 ところが当の本人は、そんな熱視線など、どこ吹く風。 年齢性別問わず、平等な態度を一貫し、決して色恋沙汰を職場に持ち込もうとはしない、完璧な上司だ。
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