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電話に出なかった時点で、諦めればよかった。
二階堂部長の爽やかさに毒されて、柄にもないことをするべきじゃなかったんだ。
いくら後悔しても、もう遅い。
私の耳は、彼らの言葉を全て拾い上げてしまっているのだから。
「陽ちゃんたらあ、3日前に片付けてあげたばかりなのにいっ」
「悪かったよ……ほら、そんな可愛い顔で怒んなって」
「もうっ、可愛くないもんっ」
「いいや、凛はどんなに怒っても、世界一可愛いよ」
反吐が出そうだ。
心からそう思った。
本当は今すぐクローゼットの扉をけ破って、飛び出したい。
でも、出来なかった。
冷静な頭とは裏腹に、喉が閉まって声が出ず、体も震えて思うように動かないのだ。
そして事態は悪化する。
「やんっ、くすぐったいってばあ」
「凛、こっち向いて」
「っ……陽……ちゃん?」
まずい、本格的にまずい。
怪しいリップ音が聞こえる。
このまま放っておいたら、奴らは間違いなくおっぱじめるに違いない。
【サプライズ、驚かせようと、忍び込む、クローゼットで、地獄絵図】
字余り――、じゃないっ!
呑気に短歌をたしなんでいる場合ではない。
誕生日に、恋人と後輩のナニを盗み聞きするなんて、どんな拷問よ。
動けえ、私の体よ、動け!
両方の拳を握り締めたときだった。
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