1003人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
「……狂気……だな」
「おめでとうございまあす!」
俺のつぶやきは、七海ちゃんの明るい声にかき消される。
「どうでした、私のマリリン、似てました?」
「似ている似ていない以前に、シュチュエーションに度肝を抜かれた」
「ん? というと?」
「いや……ありがとう」
「いいえ、あっ……それにこれっ、アイディア賞でしょう」
得意顔の七海ちゃんの人差し指が、狂気のチャーハンを指している。
「この強そうな蝋燭は、どこで手に入れたんだ?」
「非常袋に入っていたのを思い出したんです、私って冴えてますよね」
ちゃぶ台の正面に彼女が座ると、白いモンロードレスがふわりと舞った。
両肘で頬杖をつき、俺の反応を伺う七海ちゃん。
そのあまりに嬉しそうな様子を見ていると、突如として腹の底から笑いがこみ上げてきた。
「クッ……ハハハハハ、ブワッハハハ!」
「類さん?」
俺が女々しく悩みながら車を返しに行っている間に、いったい彼女はなにをしてくれているんだ。
「笑うようなことはありませんよ!」
そう言われても、もう止まらない。涙まで出てくる。
「ワハハハハ、おまっ……最高だよ」
かつて俺は、こんなに笑ったことがあっただろうか。
いや、間違いなく初めてだ。
参ったな……完敗だ。
いつか遠くない未来。
七海ちゃんは新しい恋をして自分のもとを離れていくに違いない。
そのとき俺は、想像を絶する痛みを味わうだろう。
二度と立ち直れないかもしれない。
でも……もう、それもでいい。
こうして、今この瞬間、彼女と一緒に居られるなら、俺はいくらでも演じてやる。
彼女にとって居心地のよい、クズな類さんを。
最初のコメントを投稿しよう!