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その手は明らかに生者の者とは思えないほど血の気がなかった。背後を振り返れば確実に黄泉の国へと連れて逝かれそうな気がした。
私は絡みついた腕を振りほどこうと思いっきり暴れた。
「ダールマ……さん……」
唯の声をした異形者はまるでロボットのようにお決まりのセリフを唱えている。腕はがっしりと私を捕らえ中々外れない。女性のものとは思えない力が私を捉えている。そうこうしているうちにも玄関への出口は閉ざされようとしていた。
私は火事場のバカ力で腕を振り切り、全力で閉ざされかけた隙間を抜けようと駆け出した。道を閉ざそうとせん植物がまるで駆除対象を見つけたかのように私に牙を向いた。刺々しい植物が地面から姿を現し、行く手を阻んだ。
「……がコロ……………」
言霊が終わる。これは本当に時間がない。毒花は蕾が閉じたかと思うと一斉に私に向かってきた。私は成す術なく植物に射抜かれた。いや、そうする以外に私の生き残る道は残されていなかった。
しばらく呆然としていたが痛みが現実に戻した。異形の植物が肩を貫き赤黒い液体がドクドクと溢れ出ていた。これは現実なのかそれとも夢なのか……だが痛みははっきりしているし視界が徐々に薄らいできているから多分現実なのだろう。
私は疲れと疲弊からか気づいたら背後を振り返ってしまっていた。そこで見たのは笑顔で私を見下ろす唯の姿だった。
「ンダ……鬼さん交代」
視界は閉ざされ漆黒の闇が広がった。
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