スケボーをする父

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 母の陽子(ようこ)は父が珍しく酔って帰らなかった日、リビングで唯奈の相談をした。学習塾に行かないこと、成績が著しく下がっていること。父の治夫(はるお)は困った顔をして「明日、唯奈と話してみる」と言った。陽子は真剣な顔で訊いた。 「明日も飲み会だって言っていたじゃない。キャンセルできるの?」 「ああ、さして重要な話があるわけじゃない。このまま学校にも行かなくなると困るじゃないか」  唯奈は陽子が二十五歳で治夫が三十歳のときの子だ。一人っ子にするのは可哀そうだったが弟も妹もできなかった。  唯奈は偏差値の低い高校でも受かればそれでいいと考えていた。大学は行きたくないし、勉強なんてくだらない。どうしてみんなが必死に勉強しているのか意味が分からなかった。  今日は水曜日、唯奈は学校から帰って来て部屋に閉じこもった。パソコンの電源を入れてゲームをした。ゲームといっても母がフリマアプリで買った中古のパソコンなので高性能なゲームは出来ない。唯奈は別にそれでもよかった。  七時になって夕飯を食べに一階へ降りたらちょうど父が帰って来た。スーツの上に紺色のコートを着ている。珍しく早く帰って来たことに唯奈は驚いた。 「ただいま、唯奈、夕飯を食べたら時間あるかな? 二階の書斎に来てほしい」  書斎はただ本棚が並んでいるだけだ。一応机と椅子もあるが、たまに母が仕事の勉強をするだけで唯奈自身は何か月も入っていない。 「なに? 今ではだめなの?」 「じっくりと話がしたいんだ。怒るわけじゃないよ」 「分かった」  治夫は自分から誘っておいて緊張している。手に汗を掻いたので洗面所に行った。それから一階の洋室へ行って陽子が買ったスウェットに着替えた。
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