スケボーをする父

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 陽子はタコのカルパッチョをテーブルに置いて、冷凍庫に入れていたグラスと缶ビールの五百ミリリットルをテーブルの上に置いた。 「どうぞ、飲んで食べてください」  水戸は電車で二駅のところに住んでいる。駅まではいつも陽子が車で送迎している。治夫もそうだが時間帯が違う。陽子は鍋を火にかけた。 「水戸先生はパソコン教室で講師もやってるんでしょう」 「ええ、家庭教師は一日に二、三時間だし、昼間はやることがないので。いずれ自分でパソコンスクールを始めたいんですよ」  ビーフシチューがぐつぐつといい始めた。陽子は三人のお皿にビーフシチューを入れる。ご飯もお椀によそった。唯奈は水戸の隣に座ってかしこまる。なにを話せばいいのだろう。そう思っていたら正面に座った母が喋りはじめた。 「私もパソコンを覚えたいの。ワードやエクセルはできるんだけどCADが習いたくて。あれを覚えると時給が違うじゃない。図面書きって憧れちゃう」 「ああ、そうですね。父親が建築設計士なので訊いてみましょうか? 僕、父が二十二歳の時の子供なんですよ。父と母は離婚して僕を育ててくれたのは父なんです」 「そうなの。(うち)のお父さんなんて仕事仕事で。もう爪の垢でも飲ませたい」  話題が唯奈のことにならなかったので唯奈は幾分ほっとした。いくら真面目にやっていてもここで褒められたりしたら恥ずかしい。それに自分の話題をされながら食事するのは消化に悪そうだ。  ビーフシチューを食べおえ、唯奈は立ちあがる。 「ごちそうさま。二階に行くね」 「ええ。お母さんは先生を駅まで送るから。留守番よろしくね」  留守番といっても十分くらいだ。 「うん」  二階に行くと、ベッドにうつ伏せになって漫画本を読む。ガタンと車の出ていく音が聴こえた。唯奈は水戸のきれいな手を思い返した。あの手に触れてみたい。
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