少しだけ大人になった日

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 家に帰ると小さな黒猫が居た  ニャアと鳴いたがその声は子猫にしてはしゃがれていた「それ、その仔の声?」親猫とはぐれた時ずっと母猫を呼び続けていたのだろう「そうだよ、大人の猫みたいだよね」妻はケージの前に陣取って近づこうとする子ども達を牽制しながら答えた。 「お風呂入る前にちょっと見てて、ご飯の準備するからその子達近づけさせないで」  なるほど、子ども達がスネてるのはそーゆー訳ね、仔猫はお湯の入ったペットボトル付きのタオルにくるまっていても小刻みに震えている。  小学生のお兄ちゃんと違って三歳の娘はさわりたくて仕方がないらしく、抱っこしててもケージに手を伸ばして暴れている。 「生後二ヶ月ってとこかな?」  何故か知らないがうちは仔猫をよく拾う、一度だけ台風の日に目も開いてない仔猫をポストに投函された事があってびっくりしたけど、大抵は少し育てて飼い主募集のポスターを作って貰われて行く。 「ねーねーお父さん、名前何にする?シャオヘイ?」 「小黒(シャオヘイ)?ああ、この前見たアニメの主人公ね」  小学校一年の息子が突然中国語読みをマスターしたのかと思った。 「駄目、名前は付けない、そうだろ〜?」  台所でバタバタしている妻はそれどころではないらしく「そうよ〜」とだけ答えた「欲しいっていう人が誰も居なかったらな」俺はいつの間にか決まった事をいうようになった、自分で探せなかったら近所の動物病院に里親募集をお願いすることも出来たからだ。 「誰も居ませんように、誰も居ませんように」  小学校一年生で神頼みの概念が生まれていたことに少し驚いたけど、この子がそんな事を言うのは初めてだった。 「どうした?この猫飼いたいの?」 「うん、くろちゃんおれが助けたんだよ」  さっきはシャオヘイ言ってたのにくろちゃんになってるし、ごちゃごちゃだな。 「そうなのよ〜迎えに行ったらさ〜」 「待って待って、お風呂上がってから聞くよ〜」  さっきはそうよ〜だけだったのに、ご飯をよそう手を止めてまで話そうとするって事は長い話になりそうだ、取り敢えずご飯の準備をしてくれ、妻よ。 「じゃあお父さんお風呂に入るから、ちゃんとご飯食べてなさいよ?」  暴れる娘を妻に預けお風呂に向かう。
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