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 次の仕事は一時間後。チップ分を置きに一度家に戻ると奥からパタパタと小さな足音が聞こえ、扉から肌の白い黒い髪の少年が顔を出した。 「お兄ちゃん、お帰りなさい! 今日はもう終わりなの?」 「おうジュン。まだ起きてたのか? 悪いな、あともうひと仕事あるんだ」  ミネットはしゃがんでジュンと視線を合わせると優しく伝える。 「どうして?」 「そりゃあ、仕事だからな。それに金がないと食っていけねえだろ?」  生きているだけでお金はかかる。ミネットが体を売らなければ生活ができないのだ。それにミネットにとって稼ぐ方法は体を売る仕事しかない。 「僕も売ろうかな、体。そしたらお兄ちゃんだけが、たくさん働かなくていいよね?」 「お前にゃムリだよ。お前は家で本でも読んで勉強してろ」  ミネットがそう言うとジュンはしゅんとあからさまに寂しそうな顔をした。 「いいかジュン。俺はな、顔が良いから体を売ってんだよ」  それはミネットを拾った娼夫の言葉だ。多少の理不尽を感じたが、幼いミネットはその言葉を受け入れるしかなかった。でもジュンは違う。賢いのだ。その昔自分が絵本を与えられたときは『絵を眺める』ことしかできなかった。でもジュンは意味を理解して読んでいたし、試しに懇意にしている客に相談し勉強ドリルを買い与えてみたが、これも楽しそうにこなしている。 「お前は頭が良いんだから、俺と同じ仕事をする必要はねえよ。でもまだお前は子どもだから今は頑張って勉強しろ。いいな?」 「……わかった」 「いい子だ。じゃあ、行ってくる。早く寝ろよ?」 「うん……。いってらっしゃい、気をつけてね」  ジュンは少しだけしょんぼりとした様子を見せたが、すぐににこりと笑ってミネットにいってらっしゃいのキスをして見送った。  血の繋がりはないが可愛いジュンの笑顔があれば頑張れる。ミネットはジュンの黒髪をくしゃくしゃと撫でて同じくいってきますのキスをして家を出た。
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