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舅と姑がいる家で沙織の新婚生活が始まった。翌年には娘の亜里沙が産まれ、真二郎と陽太は溺愛したが、信子はたまに顔を覗くくらいでほとんど無関心状態だった。この頃になると沙織も「変に干渉されるよりマシかも」と思うようになっていた。ただ信子は小声で沙織に文句を言う癖があった。「石鹸が切れているのに気付きもしない」「まずい珈琲豆ばかり買ってきて」「洗面所の掃除が雑」といったように。
沙織も最初のうちは「すみません」と謝っていたが、年々謝るのも面倒というか、ここまで信子の言いなりになる必要があるのかという疑念が湧いてきた。だから亜里沙が一人で歩くようになる頃には無視するか、小声で口答えするようになっていた。沙織が作った晩飯の味噌汁が「しょっぱくて食べられない」と言った時には「そんなに嫌なら残してくださって結構です」と反論した。
真二郎と陽太の顔は固まりオロオロしていた。亜里沙は大人の事情も知らぬ顔でおかずの卵焼きにかじりついていた。そして当の信子は鼻をフンと軽く鳴らし……残さず平らげた。
別の日には、沙織が自宅で焼き肉をしたいと言うと、真二郎や陽太、亜里沙は賛成したが信子は「匂いが付くから絶対に嫌」と言って譲らなかった。とにかく沙織の言い出すことに首を縦に振ることはしないのだ。何がしたいのか沙織にも分からない。ただ文句が言いたいだけなのか。虫の居所が悪いだけなのか。後者だとしても信子が突っかかってくるのは沙織にだけである。多分施設育ちである上、陽太より年上の沙織が気に入らないのだろう。何をしても文句を言われるのであれば沙織自身もあまり気にしないようにした。そんなに我慢できないなら、亜里沙を連れて離婚する選択肢もあるが、沙織には帰る実家など無い。今いる三宅の家が沙織の家だった。施設で育ったお陰か我慢強い性格が幸いだった。離婚の選択肢がよぎらない日が無いことは無い。ただ離婚までの労力などを考えると、このまま我慢していた方が良いという結論に至った。
どうせ姑の方が自分より早く死ぬ。残酷ともいえる想像を一人胸にしまって我慢の日々を過ごしていた。
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