青いお尻

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 最近、僕は悩んでいた。なぜ僕のお尻は青いんだろう。みんなはきれいなピンク色をしているのに。これは何かの病気なのかな。でも、どこも痛いわけじゃないし、食べるものもおいしくて、悪いとこなんてなさそうなんだけど。  砂場や遊具で楽しそうにはしゃぎまわっているみんなから離れて、一人で木のそばにすわり込んでいると、園長先生が声をかけてきた。「壮太、どうしたんだい。みんなと一緒に遊ばないのかい。この頃元気ないみたいだね」  そうなんだ、先生。僕何だかおかしくなっちゃったみたい。だって、みんなと違ってお尻が青いんだもん。  その声は園長先生には聞こえなかったらしく、「さあ、元気出して、おいしいリンゴでも食べたらいいよ」と言って、ポケットから赤いリンゴを取り出してそっと差し出してくれた。  え、僕だけ特別?他のみんなに内緒で僕に優しくしてくれるなんて、やっぱり僕は特別な病気で、それを園長先生は隠しているんだと思った。そして、そのリンゴには、僕の病気を治すための赤い薬が塗ってあるように見えてきた。僕は思わず、いらない!とそっぽを向いた。遠回しなことしないで、本当のこと教えてよ。  園長先生は、少し困ったような顔をしたが、ま、あわてることはないさ、ゆっくり今の状態に慣れていけばいいと言い残して、事務室のあるところに戻っていった。  やっぱり、僕は何かおかしいんだ。そう言えば、大好きな朝美先生もこの頃時々僕の青いところをじっと見つめているし、昨日はそおっとさすってくれていた。きっとこの青いしるしは、もう先が長くない証拠なんだ。それを気にかけて、ああやって優しく見守ってくれてるんだ。この青いのがだんだんと体中に広がって、痛くなって、苦しくなって、そして……そう、僕、もう少しだけしか生きていられないんだ。おいしいおやつももう食べられなくなっちゃうんだ。そのことを園長先生も知っていて、もう治らないとわかっていて、だから、ああして優しいふりをして、このままそっと僕が死ぬのを待っているのかもしれない。でも、そんなのいやだ。どうしよう。  そんなことがあった次の日、悶々と悩む壮太を朝美先生が抱っこして外に連れ出してくれた。  どこに行くんだろう、今日は天気もいいし、お出かけには最高だ。でも、お医者さんのところかな、前にもひどく痛い注射をされて泣いちゃったことがあったけど、まさかまたそれじゃないだろな。朝美先生、どこに行くの?  朝美の胸にしっかり抱かれながら、それでもいつも明るく優しい朝美先生を頼るしかないから、と大人しく連れられて行った先には、何やら顔の長いおじいさんがいた。そして、こう声をかけてきた。「こんにちは。わしは真之介。ここの主みたいなもんじゃ。お前は新顔だそうだな。まあ、そう緊張するな。そのうち慣れるから気長にやったらいいよ」  そう話すおじいさんを見て壮太は驚いた。この人もお尻が青い!  事務棟のスタッフルームで、園長が担当職員の朝美に声をかけた。「この間入園したサバンナモンキーの壮太、昨日見たら何となく馴染めていないみたいだったけど、大丈夫かい?」  朝美は、「心配ないです。同じサル仲間とは言え異種系統同士が一緒の空間で生活するなんて、最初は心配もしていましたが、特にけんかをするわけではないし、食欲もしっかりあるので、このままもう少し待てば時間が解決してくれると思いますから」と笑って返した。そして続けた。 「実は今朝、長老のマンドリルの真之介のところに連れていったんです。ここに来たからには一度は会わせてあげたいと思って。ちょっと顔を合わせさせただけなんですけど、そしたら、戻った壮太は何だかとっても元気になって、今までも結構食欲ある方だったんですけど、午前中のおやつをあっという間に平らげて、もっととせがむんですよ。何か心境の変化でもあったのか、はっきりしたことはよくわからないんですけど、会わせてみたのはよかったのかなと思いました」 「そうか、それならこのまま様子を見よう。それにしても、壮太のお尻というか袋の色、ほんとに青くてきれいだな」 「そうなんです。彼のあそこ、何てきれいなんだろうと思います。まるで温かい宝石って感じ。人間の私もそのお袋さんに恋しちゃいそうです」 「駄目だよ、彼に変なちょっかいを出したら。まだ子供なんだから」 「わかってますって。でも、これで混群飼育がうまくいって、もっと色とりどりのいろんな種類のおサルさんたちがここで一緒に仲良く暮らせるようになったらと思うと、とっても楽しみです」  そして壮太は、それ以降元気に、そしてやんちゃぶりをいかんなく発揮して、子供たちの人気者として活躍している。
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