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「涼平さん、風呂ありがとうございました」
「あっおかえり」
考え事に気を取られすぎて恭臣くんが戻ってきたことに気付いてなかった。慌てる俺を恭臣くんが不思議そうに見ている。
「どうしたんですか? そんな慌てて」
「ううん、なんでもない。俺も風呂入ってくる」
風呂に入ってる間もいろんなことが浮かんでは消える。
考えがまとまらなさすぎてこのままだとのぼせそうだ。
(いいや……どうせなるようにしかならないんだし)
馬鹿馬鹿しさを感じつつも決意めいたものを胸に風呂を出た。
リビングに戻る前にキッチンへ。冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出す。酒の力を借りなきゃこんなことすらできないなんて、我ながら情けないとは思うけど、背に腹はかえられない。
「恭臣くん、ビール飲む?」
「ありがとうございます、いただきます」
ビールを受け取った後も恭臣くんが俺を見ている。
「どうかした?」
「風呂上がりって色っぽいなぁと思って見惚れてただけですよ」
こういう時の恭臣くんは本当に楽しそうだ。……なんでそういうこと、平気で口にできるんだろう。少しだけ、羨ましい。
「……飲む前からもう酔ってんの?」
「はは、まさか。シラフですよ」
ああいう褒め言葉とか口説き文句に対してどういう風に返したらいいんだろう。もっと素直に言えたらいいのに、どうしても照れくさくて、つい憎まれ口を叩いてしまう。
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