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願いを叶える怪物の物語
昔々あるところに、心優しい怪物がいました。
心優しい怪物は、いつも困った人を助けていました。
雨に濡れる人がいれば、もう濡れないようにお腹の中にしまってあげました。
寒さに震える人がいれば、もう寒くないように、お腹の中にしまってあげました。
病気で苦しむ人がいれば、もう苦しまなくていいように、お腹の中にしまってあげました。
怖いものを見たと泣く人がいれば、もう怖いものを見なくていいように、お腹の中にしまってあげました。
お腹にしまってあげた人たちは、もう雨に濡れることも、寒さに震える事も、病気で苦しむ事も、怖いものを見る事もありません。
怪物の中で、怪物と一緒に幸せに暮らすのです。
助けてあげた人たちはみんな、怪物の口に入るとき、とても美味しい味がしました。
ある時、怪物に好きな人ができました。
それは重い病気のせいで、長くは生きられないと言われている女の子でした。
怪物はなんとか女の子の助けになりたくて、毎日なにか困っていることはないか聞きましたが、女の子から返ってくるのは決まって、
「大丈夫よ、自分でなんとかするわ」
という返事ばかり。
怪物は、好きな人のために何もできない事が悲しくて、女の子のいないところでこっそり泣いていました。
ある日、いつものようにこっそり泣いているところを女の子に見られてしまいました。
女の子は怪物に聞きました。
「どうして泣いているの?」
怪物は答えました。
「君の力になれないのが悲しいんだ」
すると女の子は言いました。
「あなたはいつもそばにいてくれる、いつもそばにいて勇気づけてくれる。あなたがそばにいてくれると勇気が湧いてくるの、死ぬのだって怖くない。十分助けになってくれてるわ」
それを聞いた怪物は喜びました。
そばにいるだけで助けになっている、なんて言われたのははじめてでした。
「わかった、そばにいるよ」
怪物は言いました。そして言ったとおり、ずっと女の子のそばにいました。もう「何か困っている事はない?」とは聞きませんでした。そばにいるだけでいいのです。
それからしばらく経って、女の子はお医者さまからもうあと少しで死んでしまう事を告げられました。
怪物はそのときも女の子のそばにいました。
お医者さまが帰ったあと、女の子はたくさん泣きました。たくさん泣いたあとぽつりと言いました。
「あなたとずっと一緒にいたかった」
怪物は答えました。
「わかった、ずっと一緒にいよう」
怪物は女の子をお腹にしまってあげました。
女の子は今までで一番美味しい味がしました。
怪物は女の子をしまったお腹を撫でて言いました。
「これからはずっと、ずっと一緒だよ」
「でも君と、もう少しだけでも一緒にいたかったな」
怪物の目から一粒の涙が転がり落ちました。
涙が地面に落ちた時、そこにはもう、怪物の姿はありませんでした。
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