光学的擬態生物(ミミック)

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 資料科にいる縹の携帯に、大木から再び電話がかかってきた。 『縹さん、柏木寛太はシロですよ。はやり事件当夜、職場の研究室にいたとアリバイを主張しています。白鷹大学は出退勤をIDカードで管理していますが、その記録もありますし、同僚も、門にいる守衛も証言しています。殺害時の駐車場の映像は……考えにくいですが……他人のそら似なのかもしれません』 「大木、頼みがある。取り調べが終わったら、俺が宿泊する場所まで車で送っていくと、柏木に伝えておいてくれ。それから、お前に調べてほしいことがある。小原幹生という人間の経歴だ。俺と同い年で、十五年前に世田谷区立深沢中に在籍していた。奴の周りで不審死がなかったか、調べてくれないか」  世田谷署の正面玄関に、黒いセダンが止まっていた。納得いかない顔つきの取調官二人に見送られ、色白の男が玄関を出てくる。片手には革鞄と白衣を抱えている。  警察署の入り口を出てきた柏木は、一度振り返って挑戦的に警察官たちに告げた。 「尾行なんかしても無駄ですよ。僕は無実なんですから」  そういうと、玄関前の段差を降りて、停車していた車をまわりこみ、助手席側のドアをあけた。 「縹、ありがとう。とりあえず今夜は、空いてるホテルに泊まることにするよ」  シートに座る。  縹はうなずくと、ナビで近隣のビジネスホテルを検索した。
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