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車が国道を目指して走り出した。
「災難だったな」
「いや、縹こそ。僕が疑われたから、捜査からはずされてるんだろ?」
『僕』か。
縹は内心つぶやいた。お前は知らなかったのか。柏木はおとなしい顔をしてはいるが、俺の前では自分のことを『俺』と言うんだよ。
「お前……誰だよ」
「もうバレてるんだよね、縹くん」
前を見たまま、柏木は言った。
「小原幹生か」
「久しぶり」
「どうして柏木を殺った?」
「僕ら三人の約束を破ったから。僕の能力は内緒だよって言ったのに……。柏木くんは研究熱心すぎるんだよ。僕のことを、あの美容整形の先生に言っちゃったから。だから先生にも死んでもらった」
世間話でもするように、小原はさらりと自供した。
「仕方ないよ。それが僕らの一族の生存戦略だから。この能力の存在を知られてしまうと、僕らは人間に擬態して生きていけなくなってしまう。こっちも命がけなんだよ」
「お前の実家が燃えたそうだ。ご両親とは連絡がとれていない」
「ああ。さっき警察署の中できいたよ。でも僕はやってない。僕は昨夜、研究室に泊まりだった。殺人も放火も知らないよ」
柏木の顔をした小原が、片手をヒラヒラと振る。
「犯行当夜、大学にいたのは本物の柏木。殺人と放火をやってのけたのはお前、明け方になって帰り道の柏木を襲って入れ替わった、違うか? それにしても家や両親まで燃やすことはなかったんじゃないのか」
「柏木の母親は目が不自由だ。視覚を失った人はほかの感覚が鋭くなる。聴覚、嗅覚、触覚……。そういう人々は僕らの天敵なんだ。僕らが偽装できるのは外見だけだから。ああそれに家が焼けて、柏木くんの私物がなくなっちゃったから、DNA鑑定で本人確認をすることは不可能かもしれないね」
残念だね、と小原は笑った。
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