光学的擬態生物(ミミック)

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「本物の柏木はどこにいる」 「大好きな海にいるよ。今頃は愛する魚たちと一体になってるはずだ」  小原は、うっとりと言った。  縹は思わず指先でハンドルを叩いた。 「なんてこった……」 「生きていくために他の生物を犠牲にするのは、人間も一緒だろ? 自然界の営みそのものだよ」  こみあげる感情を殺し、縹は助手席にいる小原をにらんだ。 「それじゃ、お前は今後、柏木寛太として生きていくということか」 「それほど簡単でもないけどね。僕は生物学のエキスパートってわけじゃないから、このまま研究職を続けるのは無理だ。別の仕事を探さないと。ただ……柏木に擬態しているかぎり、人間であることは保証してもらえる」  縹の携帯が鳴った。大木からだ。  縹は小道に入り、路肩に車を停めた。 『縹さん、十六年前、小原幹生は自宅の火事で両親と兄弟を失くしています。他に身寄りのなかった小原は、その後児童相談所に預けられ、養育里親のもとから中学校に通っていました』 「その火事は、失火か、放火か、調べはついてるのか?」 『放火の可能性が高い、と判断されています。が、犯人は捕まっていません』  小原幹生も、やつの隠れ蓑のひとつだったというわけだ。その小原の秘密が、柏木によって漏れてしまったから、今度は柏木寛太に成り代わることにしたのだろう。  縹は大木に礼を言って、電話を切った。
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