光学的擬態生物(ミミック)

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『柏木が署に到着次第、取り調べが始まります。逮捕できるかどうかは、彼の証言内容次第でしょうね』 「丸山班長の話、お前はどう思う? 俺が私情で幼なじみをかばうと思っているか?」 「まさか。縹さんを疑ってたら、こうして協力していませんよ」  快濶に答える大木の声をきいて、縹は少し安心した。  一ヶ月前の同窓会のとき、縹は柏木の隣の席に座った。柏木寛太とは、大人になった今も時々連絡を取り合っていた。 「両親は、俺が大学教授になったなんて自慢してるらしいけど、ポスドクなんて収入も少なくて、生活していくだけで大変でさ」  生物学の研究職についている柏木は、その待遇のせいで未だに独身で実家暮らしなんだ、と縹にこぼした。柏木の母親は、年齢とともに白内障が進み、ほとんど目が見えないらしい。その母を手助けしながら、実家でつつましく暮らしているのだ。  ビールの酔いがまわってきた柏木が、気持ちよさそうに自分の研究の内容を話した。 「光学式擬態?」  縹が耳慣れない単語を聞き返すと、と柏木は得意そうに解説した。 「うん。タコとかイカとかの頭足類がさ、体の色を瞬時に変えたりするだろう? あれは皮膚の下にある筋肉細胞の中に、熱電素子っていうのがあってさ。そいつが微細な電流の流れる向きによって吸熱と発熱を行うんだ。やつらの皮膚には虹色細胞がある。色素を含んだ反射細胞で、ホルモンや熱によって反応して、表面の色を変える機能があるんだ。だから、一瞬で体表面の色変えて擬態するなんて芸当ができるわけ」
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